第14章 ★約束(4)
開始が遅れた表彰式は、式そのものはトラブルらしいトラブルも無く短時間で終わった。
式の終了後、試合会場でもあったアリーナから出て行く際に、俺は及川と岩泉を一瞥した。
不機嫌そうな表情の彼らは、まばらになった観客席に視線を固定したまま、俺たちの方へは見向きもしなかった。
思えば、あの2人との付き合いも長い部類に入るが、毎年同じような場所で同じような表情を見ている。
会場から出ると直ぐ様、主将からバスに移動しろとの指示が出る。
表彰式までの時間が長かった分、いつもならばこのタイミングで行う荷物の積み込み作業などは既に終わっていた。
俺は、携帯を取り出して通話アプリを起動させる。
“表彰式に行ってくる”
そう言って部屋に置き去りにするように別れた天海のことを、俺は気にしていた。
会いたい。
そんな風に思っている自分の心にも当然気づいている。
だが、会話中の主将とコーチを盗み見た瞬間に、自分のその希望が叶えられることはないだろうと直感的に悟った。
(…電話で話をする時間すらないかもしれないな…)
そう判断し、起動したばかりのアプリを通話モードからメッセージモードへと切り替える。
「このまま戻るみたいだけど…若利くん、ありさちゃんに会えなくていいの?」
音もなく隣にやって来ていた天童が小声で聞いてきた。
俺は、文字入力画面から一瞬だけ視線を逸らし、天童を見やった。
「すぐに移動だ。仕方がない」
「トイレに行くふりしてちょっとだけ会うとかもしないの?」
声量を抑えながらの不謹慎な提案。
俺は、完全に携帯ではなく天童へ目を向けた。
「…全員で、バスではなくランニングで帰ることになってもいいというならやってみるが」
「あー…若利くん、聞かなかったことにして!」
天童は両手を前で組んで伸びをしてから、その両手を頭の後ろへ持って行くという“いつものポーズ”を取りながら俺に言う。
「でもさ、本当に会わなくっていいの? アレでおしまいでいいの?」
アレ、とは、おそらく天童たちに目撃された時の状況を指しているのだろう。
そんなつもりはなかったのに、抱き寄せた天海の柔らかさと、その柔らかい身体が腕の中でビクリと震えた瞬間を思い起こす。
「若利くんはいいとしても…ありさちゃんはちょっと可哀想だよね、さすがに」