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【HQ/R18】二月の恋のうた

第13章 約束(3)


「…ありさ」

誰もいない部屋の中で、俺の腕の中に閉じ込めて、名前を唱えて首筋に唇を当てる。
白い首筋。
リンパ腺を舌で辿り降りた。

「…ぁっ…」

押し殺した声音。
俺だけが知る彼女の反応。
身体の内側、眠っていた獣が耳をそばだてて目覚める気配。

「…っし、じま、くんっ…」

返事をする間も惜しくて、その肌を強く吸う。

「ぁっ…だ、めっ…」

力ない静止を無視して、天童に押し付けられた本にあった“証明”を施す。

誰にも渡さない。

バレーの時ですらめったにすることない、強烈で苛烈な誇示――天海は誰にも渡さない。
俺のものだ。

仰け反るようにしながら細かく震える天海を決して離さず、露出された肩にも口付ける。
何かが足りないと獣が乾いた声を上げて、俺の手はそれに従うように彼女の服の端から入り、肌に触れながら胸元へ伸びていく。

「ゃ…だめっ…こんな…ぁっ」

鎖骨に軽く歯を立てて、言葉を遮る。
ほんの少し汗ばんだ肌を包む下着に手を挿し入れ、その膨らみを手のひら全体で包んでから親指でその先端を爪弾いた。

「ぁんっ…」

天海が鳴いた。
そして、その時だった。

「牛島さーん」
「賢二郎、迷子探しみたいだネ」

急に耳に届いた白布と天童の声が俺たちを我に返らせた。

俺は衣服に入れていた手を引き抜いた。
ただ、天海自身は身体に力が入らないのか、俺にしがみついたままだ。俺は肩を上下させる天海を抱き留め続ける。

「どこだろ」
「とりあえず、一通り…」

扉の方へ目をやっていると、入室してきた白布と目が合った。
口を「あ」の形にして、白布が固まる。

妙なところで言葉が途切れた白布に対して、不審に思ったのだろう、天童の「どしたのー、賢二郎」という明るい声が近づいてくる。
そして、それも白布の後ろから部屋の中を確認した段階でやはり「あっ」と短い言葉と共にピタリと止まった。

「…表彰式か」

俺は、言葉を継げずに佇むチームメイトに顔を向けて尋ねる。
2人はそれぞれ「そうです」「うん」と頷いた。

「すまん、忘れていた」

率直に詫びて、俺は顔を埋めている天海に視線を落として言った。

「天海、突然すまなかった。表彰式に行ってくる」

腕の中で彼女は、何も言わず顔も上げずに、小さく頷いた。
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