第13章 約束(3)
今日はポニテではなく垂らした髪を手の甲で払うようにかき上げながら、天海は
「そういえば、表彰式、遅れるとか?」
と疑問符含みで話してくる。
「あぁ…」
俺は、その仕草で、今日の彼女の服装が両肩を露出させたものだと気付き、一瞬、その白い、滑らかな肌に視線を釘付けにさせられた。
「牛島くん…?」
名前を呼ばれて我に返る。
無言で天海の目を見つめ返すと、なぜか天海が勘違いをした。
「あっ、ごめん。若利くん。…本人前にしちゃうと戻っちゃうなぁ…昨日からごめんね、若利くん」
言い直されて、俺は目を細めた。
悪い気はしないな――。
胸中で独りごちてから本題を切り出す。
「15分、遅れるそうだ。天海、その後の都合に問題はないか?」
「大丈夫。今日はこの後、帰るだけで何の予定も入れてないから」
「帰りは新幹線か?」
今の話ぶりでは指定席では無さそうだが、念のため尋ねた。
天海は頭を振ると、予想外の答えを口にする。
「今日は夜行バス。毎回新幹線は、さすがに。今回は泊まりでもあるし、移動は安めに、ね」
言われて初めて、彼女がこの1ヶ月の間に2度も宮城に足を運んだのは負担になっていたのだと認識する。
「だから、私の方はバスの時間まで予定はないんだけど、遅れるとなるとむしろ…若利くんの方が、表彰式後に会ったりするのは難しいんじゃないの?」
そうかもしれない、と俺も思った。
「こうして会えて直接話ができたから、私、それだけでも十分だから。…あ、そうだ。さっき言いそびれた」
思い出した素振りで天海は、身体ごと俺の方へと向き直る。
楕円形のガラス越しに、澄んだ瞳が柔らかく笑んだ。
「優勝の約束、叶えてくれてありがとう」
俺は眉根を寄せた。
「…あれは“全国”優勝の約束だったと思うが?」
「違うよ。私は『優勝してください』ってお願いしたんだもの。この大会も対象です」
毎年当たり前のように優勝している県大会。
その成績をもって彼女との約束を果たしたなどと、俺は露ほども思わないのだが、天海は天海で譲る気配はまるでない。
どうしたものかと思いながら、そこでふと、俺は試合後に覚えた疑問を思い出した。
聞いてみるなら今だろう。
なぜ、及川たちには「頑張ってください」だったのか、と。