第13章 約束(3)
どの大会でも大体そうだが、春高の宮城県代表選でも、決勝戦の後は表彰式が行われる。
「後」とは言ってもそれは「直後」ではない。
俺たち選手自身の事後管理や表彰式そのものの準備もあるため、それなりの時間を置いて行われる。
天海とは表彰式が終わってから会う約束をしていた。
が、何の事情か、表彰式の開始が15分遅れるというアナウンスが為された。
会うのが遅れるがそれは平気かと、天海に聞くために携帯を手にして昨日の中央ロビーに足を運んだところで、俺は偶然にも天海本人に遭遇した。
「おめでとう」
第一声は祝辞だった。
「強かったね、白鳥沢」
「…第3セットは落としたが、な」
ロビーの端に移動しながら、そんな風に言葉を交わす。
時折、すれ違い様に俺たちを見る者もいた。
おそらくは俺のジャージ「白鳥沢」の文字に反応しているのだろう。
天海も昨日の1件で、この会場に限るならばそれなりに有名人なのだろうが、一晩も立てば人の記憶は薄れるものであるし、今日の彼女は銀縁の繊細な眼鏡を掛けているため気づく者の方が稀に違いない。
眼鏡は変装のために買った伊達眼鏡だという。
「自衛用」
そう言う天海に俺は質問を投げる。
「青城対策か?」
「違う違う。そっちは、まぁ恥ずかしいけれど実害ないから。問題は連れて行かれた男の方。逆恨みとかされる可能性もあるでしょ」
「酔っ払っていたんだろう? 覚えていないんじゃないか」
「怖いのは本人の記憶じゃなくて、第三者の記録かな」
首を捻った俺に対して、天海は
「携帯の動画とか写真。最近は何でも撮って、ネットにアップしちゃうからね」
と眼鏡のブリッジを押し上げながら言った。
俺は彼女の、いつもより理知的な顔を眺めて、視力を尋ねる。
「両目1.2…あ、違った、左は1.0になっちゃったんだっけな」
「普段は裸眼か?」
「そう。牛島くんも?」
「あぁ、裸眼だ」
「眼鏡のイメージ、湧かないね」
「天海は眼鏡を掛けても似合うな」
動揺が瞳の中に揺らぎを生んで、頬を赤く染めた。
だが、今日の天海は、今までのように取り乱したりはしなかった。
「ありがとう」
はにかみながら俺に礼を言った。
その横顔を見て、俺は改めて「どんな姿でも綺麗なことは変わりないな」と思っていた。