第13章 約束(3)
春高宮城県代表戦3日目、決勝戦。
午前中に行われた女子の決勝は、何度も“奇跡”を起こして勝ち上がってきたノーシード校を「女王」が何の番狂わせもないまま力で捻じ伏せた。
俺たち男子の決勝戦の方は2年連続での同一カードになっているが、下馬評も昨年同様に「白鳥沢が優勢」なのだと天童が言っていた。
その天童は、試合前、青城のアップ風景を見ながら気になることを口にした。
「…ちょっとイヤな感じする奴がいるねェ」
いつになく真剣な響きをもった呟きに、場に居合わせた俺と大平、それから山形も天童の視線の先を追いかけた。
ベンチ組ではあるが、夏には見かけなかった。
及川と談笑している雰囲気から考えるに、おそらく奴と同学年、つまりは俺たちと同じ2年だろう。
身長は俺と同じくらい。青城は全体的にフィジカルがさほど強くない印象があるが、その男も、パッと見の印象が「細長い」に尽きた。
「あの癖っ毛の奴か? イヤな感じ、って何だよ。初日の伊達工のデッけー1年みたいな?」
山形の問いかけに、天童は「違う違う。ああいう鉄壁さんたちみたいのじゃなくて、もっとこう…厄介な感じ」と具体性のないことを言う。
たぶん、本人も“何が”そう感じさせるのか、掴み損ねているのだろう。
しばらく4人全員で青城の練習風景を眺める。
天童を含めた8つの目で「厄介な感じ」の男のスパイク練習を観察した。
「…打点が気になるところだな」
と、最初に感想を漏らしたのは大平。
俺も同じ着目点だったため、
「センターだろうな」
と追従した。
一方で、俺や大平の推察が正しければポジションが同一となる天童は、
「目線の運び方がイヤらしい。どの程度なのかはわからないけど、アレ、出てきたら厄介なブロッカーだよ、たぶん」
と評する。
現状、青城において最も弱いと思われる部分が「ブロック」だ。今大会でもブロックの決定率は低い。
「若利を止めるためにブロック要員補充した…ってところか」
山形が腕組みをして言うと、俺を横目で仰ぎ見た。
俺は率直に言う。
「どれほどのものだかはわからないが…天童ほど厄介なブロッカーでなければ問題ない」
青城コートへ向けていた顔をまるで機械人形のようにくるりとこちらに向けた天童が、
「若利くんに褒められた!」
と嬉しそうに言い、大平と山形が朗らかに笑った。