第12章 約束(2)
「岩ちゃーん」
「若利っ、集合かかっぞー」
会話の終わりを待っていたかのように、二つの方向から声がかかった。
俺たちはそれぞれに声の主を確認した。
岩泉の元へやって来たのが及川。
俺の方へやって来たのが瀬見。
双方を見て、天海が口端に笑みを刻んで俺に言ってくる。
「2組のエースとセッター。明日を前に“龍虎相まみえる”って感じ?」
「岩泉はまだ青城のエースとは呼べない」
3年にエースがいると指摘する前に
「うるせーよ」
と険しい声の岩泉。
「お前んとこの正セッターだって、今は瀬見じゃねーだろーが」
ほぼ同時に、その瀬見と、それから及川が俺たちの輪に加わったが、瀬見は今の会話が聞こえていたようで、岩泉に負けず劣らず不穏な気配を漂わせて来た。
「…おい、若利。なんでお前を呼びに来て、俺がケンカ売られてんだよ…」
「勘違いすんな、最初に売ってきたのはそっちだ」
「わー、なに、この雰囲気。及川さん、こわーい!」
おどける及川の後に続いて天海が
「あの、岩泉さん、言葉が足りなかったようでごめんなさい! 瀬見さん、牛島くんを引き止めたの、私です、すみません」
と畳み掛けるように言う。
全員が口を噤んで天海を見た。
もちろん、俺も、だ。
「天海…お前が謝る必要は何1つないと思うが」
一拍置き、男3人の声が重なった。
「お前が言うな」
「…ほら、岩ちゃん。先輩呼んでる。天海さんには伝えた?」
「あぁ。この話はここまで、って言ってたところだ」
「それが賢明だよね、うん」
腕組みをして1人頷く及川と、それから岩泉に、天海が少し改まって話しかけた。
「あの…及川さん、岩泉さん」
「ん? なに?」
気軽に返した及川を岩泉が肘で突くが、何の合図だかわからない及川は「あだっ」と言ったまま天海の言葉を待つ。
「明日の決勝、楽しみにしてますね」
激励。
青城の2人が、お互いに顔を見合わせてから、意外そうに天海を見た。及川などは、すぐに底意地の悪そうな顔をして。
「…天海さんの彼氏、負けちゃうけど泣かないでね」
俺の傍らで瀬見が色めき立つ。
天海はというと、及川のその言葉に楽しそうに笑った。
「それはないと思いますよ、牛島くんたち強いので。…頑張ってくださいね」