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【HQ/R18】二月の恋のうた

第12章 約束(2)


天海の反応を待つまでもなく、やってきていた岩泉は俺たちの元に辿り着いた。

「取り込み中、悪ぃんだけどな」

今から明らかに俺に“何か言う”、そんな態勢だった天海が身体をびくりと揺らして岩泉を見やった。

こちらに来ることに対して見当がついていた俺は驚きもなく岩泉を見て、天海に代わって問い質した。

「何の用だ、岩泉」

岩泉が、不快さを取り繕わぬ顔で俺を見てくる。

「お前に用はねーよ、牛島」

吐き捨てて、岩泉は俺を無視するように天海へと向き直る。

「さっきはきちんと挨拶できずに済まなかった。青葉城西バレー部2年、岩泉だ。主将もさっきまで一緒にいたんだけどな、大会の関係者に捕まっちまってな…代わりに礼を言っといてくれ、と言伝てもされてる。――今日は本当に助かった」

天海は、岩泉の言葉を聞きながら“いつもの天海”に戻った。

「お礼とか助かったとか、大げさです」
「いや、マジで、だ。あんたがうちの1年を止めてくれた話も聞いた。下手すりゃ、試合どころじゃなかったからな、俺ら」

俺が大平から聞いた話、その裏付けが、岩泉の今の発言で、取れた。

「うちの引率も、もう1度礼が言いたいからと、今、館内を探し回ってるんだが…」
「それは結構です」

岩泉の言葉を天海は遮る。
笑みを浮かべてはいるが、決して譲らない雰囲気も醸し出した声音で。

「もうカタがついた話ですから、私の方もこの辺で。あまり長く引っ張りますと、傷ついたあの生徒さんにとって良くないと思います」
「…確かにな」
「幸い、私はここ、宮城の人間じゃありませんから、風化させる方向で行きましょう」

わかった、言っておく、と岩泉が頷いた。
次いで、天海のスケジュールを聞いた。

「明日の決勝は?」
「もちろん、来ます。…受験生が何やってんのか、とか言わないでくださいね」
「…受験生? …ってことは、3年⁉︎」

岩泉は狼狽しながら俺に確認の視線を送ってくる。
俺は首を縦に振って天海の言葉を肯定した。

「受験生だ。つまりは3年だ」
「岩泉さん、私、そういうの気にしませんから」

先手を打った天海が笑んだまま言う。
岩泉はというと、口を開き…「ああ」と「はい」で迷ったのか、一言「あっ、はっ」と答えたのだった。
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