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【HQ/R18】二月の恋のうた

第12章 約束(2)


両手を胸の前に掲げ、子供がする別れの挨拶のようにその両手を左右に振りながら、天海は自分を取り囲む女たちに何やら一生懸命話をしている。

緊張はしていないが砕けている様子でもない。
有り体に言うならば「恐縮している」といったところか。

「及川どころか、若利、お前よりも人気者だな」

大平が軽やかな笑声を込めてそんな風に言った。

自分が大平の言うような「人気者」だなどとはまったく思っていない俺だが、大会のたびに女たちに取り囲まれている及川の姿を思い浮かべると、少なくとも奴よりは今の天海の方が人だかりを作っているように思えた。

これは俺の推測でしかないが、県下最強「女王」と呼ばれて久しい新山女子のバレー部、そこのエースであろうとも、今の“天海の人垣”を作るのは難しいだろう。

「生徒会長だったことも考えると、天海さんは、人というか人望を集めやすいのかもしれないな」

大平はそう言うと、俺の目を見る。

「…なんだ?」
「いや、何でもないよ――じゃ、若利、俺は先に行くな」

律儀に言い置いてから、大平は俺の肩を叩くと傍らを通って階段へと向かっていった。

俺は1人、天海を遠巻きに眺める。

天海は、少し困ったような笑みを浮かべながらも、自分の周りにいる1人1人に丁寧に対応していた。

その様子を見ていて、俺は、ふと、彼女が自分が思っていたよりも小柄なことにこの時初めて気づいた。

…考えてみれば、俺は、あまり天海の身体的特徴に着目したことがない。

最初に気になったのがあの大きな目であり、表情などは具に見てしまうのだが、細かい造形については頓着していない。
唇の色形が良いことなど、つい数時間前に気づいたくらいなのだ。

(良い機会かもしれないな)

俺は声に出さずに自身に言って、群がる女たちの陰に隠れがちな天海をできる限りの範囲で観察する。

彼女は、集まっている女たちと比べるに、身長は平均値のようだ。
相対した時のことを思い浮かべて総合的に判断する…160cm位か。
集まった女たちに比べて立ち姿が美しい。
頭のてっぺんから爪先まで、1本の軸が存在しているかのようだ。

弓道をやっていたことを思い起こし、一瞬、袴姿だといつにも増して凛々しいのだろうなと頭の中のもう1人の俺が言った。
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