第12章 約束(2)
午後の準決勝を、俺たち白鳥沢はAコートで、及川たち青城はBコートで行った。
タイムアウトの際などに青城メンバーがこちらを伺う様子をそれとなく察していたが、コーチや主将の言うように、俺は目の前の試合にだけ注力した。
第1セットを圧勝で取ったからか、あるいは、明日の決勝のことを考えてか、鷲匠監督は第2セットでは3年2人を大平、天童に入れ替え、そしてリベロも山形に変えた。
「こういうのって…せんざい? ぜんざい? の、何だっけ」
「千載一遇の好機、か?」
「その流れでよくわかったな、獅音」
「っーか、何が千載一遇なんだ、お前」
「ありさちゃん…改め、天海さんに俺の格好良さをアピール!」
「アピールするだけ無駄だ、やめとけ。若利っきゃ見てねーよ」
顎で俺を指して、瀬見が言う。
セッターは白布のままだ。
俺は、ドリンクとタオルを1年に手渡して、コーチの元へ歩を進める。
「誰が見てようが見ていまいが関係ない」
両手を腰に当てながら瀬見が天童に言った。
「今の時点でもう若利に負けてっからな、お前」
第2セットは序盤からシーソーゲームとなったが、途中、ピンチサーバーとして入った瀬見のサービスエース2本で突き放すとそこからは早かった。
結果としてはストレート勝ちの圧勝で、白鳥沢は今年も決勝に進出を決めた。
「青城、どんな感じだ?」
観客席へ礼をした後で山形が誰とはなしに尋ねた。
俺たちは揃って隣のコートを見る。
第2セット、18対18。いい勝負のようだ。
第1セットは青城が取っているため、相手チームもここが踏ん張りどころだと認識しているのだろう。
こちらの試合の様子など目に入っていないだろうが、俺たちの見ているちょうどその時に、及川がツーアタックを決めた。
これで18対19。
「あのツー、ムカつく」
「あのツーはムカつきますね」
瀬見と白布が異口同音。
それに天童が続く。
「あのツー以外もみんなムカつく」
「撤収すっぞ!」
主将の声がけに、俺たちは青城から意識を離す。
サブアリーナに移って、ダウン。
その後、青城戦が終わっているようならば荷物をまとめてバスで帰校。
バスに乗るまでの間、天海と話をする予定でいるが…。
(医務室のところでもっと話をしておくべきだったか…)
移動の合間では短すぎると、俺は思い始めていた。