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【HQ/R18】二月の恋のうた

第11章 約束(1)


入口、と聞いていたが、現場は玄関ホールのある正面入口ではなく西ホールの入口だった。

「若利くんっ、早っ」

後ろからの天童の、非難とも称賛ともつかない声を俺は無視して、中庭に面した廊下を抜けた先にできていた人垣に割っていく。

多くが事態を見守るように佇んでいた。
何層にも重なった人の壁を「すまん」と言いながら進んでいくのは難しく、様子が伺えるところまで容易にはたどり着けない。

一旦、立ち止まったところで、この喧騒の中心と思われる方角から声が聞こえてきた。

「お前じゃねぇよ、退けよ!」

少し呂律の怪しい口調。
声の感じからして…成人男性だ。

「退きません」

続いて聞こえてきた、空気を裂くような鋭い答の矢。
その凛然とした響きに俺の心臓が大きく脈打つ。

「俺はそっちの子に話があるの!」
「話をする状態じゃないですよね。あなたがさっき行ったのは暴行です。…警察、呼びましょうか?」
「お前、さっきからウザいよ!」

冷静さの欠片も見当たらない怒鳴り声。
空気を打つ乾いた音が立ち、それにどよめきと悲鳴が追従した。

「退け」

俺は力ずくで前の男を退かす。
前方から「いたい…」「怖いっ」といった女の声が漏れ聞こえてくる――殴られたのだろう。

焦る気持ちで気が立つ。

…邪魔だ、退け。

内心の声を懸命に抑えて、俺は視界を遮る最後の男を退かした。

「はーい! そこまで!」

測ったように、両手を叩く音を聞いた。
水を打ったように場が静まり返る。俺も思わず音がした方を見やった。

及川だ。
横には青城の主将。

その及川の後ろから「関係者」の腕章をつけた男たちが弾丸のように飛び出した。
行く先を追って、俺は見つける――天海を。

天海は、大会関係者たちが駆け寄る、俺たちよりも少し歳がいった位の男――大学生くらいか?――の前に毅然と立っていた。

頬骨の辺りが赤い。
だが、本人はそこを押さえるわけでもなく、男から目を逸らさずに立っていた。

「…酔っ払いが、酒飲むなら居酒屋行けっての。及川、女の子の方、頼むわ」
「うぃーす」

関係者に連れられる男を尻目に、3年に促された及川が天海の元へ行く。
迎え入れる天海は、その時にはもう男に背を向けて、泣きじゃくる青城の制服を着た女子生徒と何か話していた。

俺も、彼女の元へ赴く。
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