第11章 約束(1)
午前に行われた準々決勝は、前日の試合同様に危なげもなく勝利を収めた。
インターハイに国体、そしてこの春高予選。さほど間を開けずに実戦を行っているアドバンテージは大きい。
トーナメント表の反対側の山は、誰しもが予想しているとおり、青城が勝ち進んでいる。
番狂わせがなければ、及川の発した言葉が現実になることだろう。
「気を抜くなよ。優勝して当たり前と思っている時にこそ落とし穴はあるからな!」
コーチが発破を掛けるように言う。
続いて、3年の主将が「コーチの言うとおりだ! 目標は当然のように優勝だが、ちゃんと目の前の試合1つ1つに集中してけよ!」と午後の試合に対して言及してから昼食後の休憩になった。
俺は、肩がけにしたバッグから携帯を取り出して視線を走らせる。
内容を確認してから携帯は元に戻さずにジャージのポケットに突っ込むと、観客席へ向かう。
「若利くん、どこ行くの?」
4、5歩行ったところで天童に呼び止められた。
「客席に行く」
「トイレ行かないの?」
「天海から『着いた』と連絡が入っていた。荷物を置いてから入口まで迎えに行く」
「うっわ、若利くんが彼氏っぽいこと言った!」
「彼氏だろ」
変に楽しそうな天童に、瀬見が突っ込む。
いつもの雰囲気でいた彼らが口を噤んだのは次の瞬間。
「青城だって」
「揉めてるってレベルじゃないらしいぜ。とにかく、観に行くべ!」
「いいけど…こういう野次馬根性、どうなん?」
俺たちの横を小走りと言っていい速さで通り過ぎていった男3人の話が会話を真っ二つに割いて行った。
急に天から降ってきた話に、天童と瀬見が顔を見合わせた。
「揉めてるって言ってたな…」
「だね。…若利くん、行く?」
「青城の揉め事に興味はない」
俺の即答。
「だよね。英太くんは?」
「俺は行かねーよ。コーチや監督に何言われっかわかんねーからな」
「つまんないの。…俺、ちょっと見てくるから、英太くん、荷物よろしく」
節でもつけて歌い出しそうな天童の向こう側で、今度は入口方面からやってきた他校の女子生徒が慌てた様子で同じ制服の女子生徒に掛けた声が耳に入る。
「先生は⁉︎ 誰か、大人呼んで、 なんか、入口のとこ、ヤバいよ! 女の子が殴られてた!」
俺は天童から声をかけられるより先に、瀬見に荷物を投げつけるように押し付け、入口へ走った。