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【HQ/R18】二月の恋のうた

第2章 夏の思い出(1)


「…で、本当のところはどうなんだ、若利」

質問が振られた。
天童でもなければ瀬見でもなく、山形からの問いだ。

聞いていたことに一も二もなく驚愕したのだが…バッグを肩にかけたまま改めて周囲を見渡すと、2年は皆、合宿所へ向かう準備をしながら何の会話も交わしていない――聞き耳を立てているのだと気づく。

(…興味があるのか?)

この話のどこに、興味を持つのか。
うちのバレー部の連中は、時々、俺には考えもつかないような反応をしてみせる。
今のように、周りの反応を新鮮に感じることも少なくはない。

「本当のこと…? 瀬見が天童にどう言ったかは知らないが…」

3年の先輩たちからやや距離を置き、合宿所の入口へと歩を進めながら俺は口を開く。
大平、添川が連れ立つように共に歩き出し、残りの2年も一塊となって歩き出した。

「若利、頼むから天童の言うことを間に受けるなよ」
「ナニソレ。英太くん言ってたじゃーん――告ってた感じだった、って」
「あくまで“感じだった”だろう! 尾ひれつけてるんじゃねー!」
「お前ら、うっせー。若利にしゃべらせろ」
「で、若利くん、実際のところは?」

先行する3年に聞こえぬようボリュームを落とし、けれども賑やかに会話が成され、最後は山形の質問を天童が繰り返したところで落ち着く。

俺は、先ほどの――会場内の出来事を備に思い返した。

「…目を、合わせてはいた」

「おっー!?」と天童の高い声。
3年が何事かとこちらを見た。
山形と瀬見が「天童ッ」と短く叱りつける。

俺は、無言の行軍に戻ろうかとしたが、ふと、このまま会話を終えると事実が伝わらないと考えて口を開く。

「目を合わせてはいたが…コクられてはいない」

――そういえば、あの時、呼び止められた理由は何だったのだろうか。

この時に至ってようやくそれに気付く。
彼女がわざわざ他校の自分に声をかけて、そこまでして告げたかった内容とは何なのか。

気にするようなことではないと断じる自分。
その、内なる声を無視するように、思い巡らすのもまた自分。

答えの出ない問いの答え。
…俺は、珍しくバレー以外のことで黙考に沈んでみせる。
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