第2章 夏の思い出(1)
「…で、本当のところはどうなんだ、若利」
質問が振られた。
天童でもなければ瀬見でもなく、山形からの問いだ。
聞いていたことに一も二もなく驚愕したのだが…バッグを肩にかけたまま改めて周囲を見渡すと、2年は皆、合宿所へ向かう準備をしながら何の会話も交わしていない――聞き耳を立てているのだと気づく。
(…興味があるのか?)
この話のどこに、興味を持つのか。
うちのバレー部の連中は、時々、俺には考えもつかないような反応をしてみせる。
今のように、周りの反応を新鮮に感じることも少なくはない。
「本当のこと…? 瀬見が天童にどう言ったかは知らないが…」
3年の先輩たちからやや距離を置き、合宿所の入口へと歩を進めながら俺は口を開く。
大平、添川が連れ立つように共に歩き出し、残りの2年も一塊となって歩き出した。
「若利、頼むから天童の言うことを間に受けるなよ」
「ナニソレ。英太くん言ってたじゃーん――告ってた感じだった、って」
「あくまで“感じだった”だろう! 尾ひれつけてるんじゃねー!」
「お前ら、うっせー。若利にしゃべらせろ」
「で、若利くん、実際のところは?」
先行する3年に聞こえぬようボリュームを落とし、けれども賑やかに会話が成され、最後は山形の質問を天童が繰り返したところで落ち着く。
俺は、先ほどの――会場内の出来事を備に思い返した。
「…目を、合わせてはいた」
「おっー!?」と天童の高い声。
3年が何事かとこちらを見た。
山形と瀬見が「天童ッ」と短く叱りつける。
俺は、無言の行軍に戻ろうかとしたが、ふと、このまま会話を終えると事実が伝わらないと考えて口を開く。
「目を合わせてはいたが…コクられてはいない」
――そういえば、あの時、呼び止められた理由は何だったのだろうか。
この時に至ってようやくそれに気付く。
彼女がわざわざ他校の自分に声をかけて、そこまでして告げたかった内容とは何なのか。
気にするようなことではないと断じる自分。
その、内なる声を無視するように、思い巡らすのもまた自分。
答えの出ない問いの答え。
…俺は、珍しくバレー以外のことで黙考に沈んでみせる。