第2章 夏の思い出(1)
「若利くんっ、コクられたってマジ!?」
荷物を持ったところでそんな風に声をかけてきたのはバスから降りてきたばかりの天童だ。
俺は瀬見の姿を探す。
先刻、意図せぬ乱入者になった瀬見は、合流した直後に「邪魔して悪ぃ」と謝っていた。
俺は逆に瀬見に詫びた――単独行動した俺が謝る理由はあっても謝られる理由はない。
あの時、彼女が言おうとしていたものが何だったのか。
それは確かに気にはなったが、何事にもタイミングというものはある。
瀬見が故意に機会を潰したわけではないことなど火を見るよりも明らかな現状、瀬見には謝罪するような落ち度はないのだ。
それでも瀬見は申し訳なさそうな顔をしていた。
敏い天童は、そんないつもと様子の異なる彼に気づいてバスの中で尋ねたのだろう。何があったのか、と。
それはただの憶測だが…間違ってはいないらしい。
バスから降りてくるところだった瀬見は、俺と目が合った瞬間にバツの悪そうな顔をした。
「なんてコクられたの、若利くん。で、なんて答えたの⁉︎」
「…コクられては、いない」
俺は自分のバッグを肩に掛け、天童の誤解を解く。
この手の会話を天童とするのは決して珍しいことではない。が、今日の天童はいつに比べて格段に興味を持っているようだ――こちらを見る目が喜色一色。
「ホント? 英太くんの報告と違うけど」
「おい、天童!」
自分の名前が聞こえてきたためか、瀬見はすぐにこちらにやって来て鋭く言う。
「俺は告られたとは言ってねーぞ」
「見つめあって告白タイムだった、とか言ってたじゃん」
「そこまでは言ってねーって」
言い争うように話し始めた瀬見と天童の傍らで、大平が
「おいおい…騒いでないでさっさと荷物持たないと」
と、それぞれのバッグを指差しながら2人を牽制する。
これから合宿所の各部屋に移動し、荷物を置いた後でミーティング。
もたもたしていると鷲匠監督に怒鳴られるのは目に見えている。下手をすれば、借りている体育館で何十周も走らされることだろう。