第10章 恋の季節(3)
天童命名の「仲直り電話」において、俺と天海は1つの決まり事を定めた。
毎日、決められた時間に電話をする。
お互いの生活に影響が出ないよう、無料通信アプリを利用して20分間、その日にあったことでも何でも内容を定めずに話すことにした。
『私たち、知らないことが多いし。それに…』
声を聞きたいから。
そんな風に言った彼女に、俺も「そうだな」と全面的に賛同の意を唱えた。
電話では、主に俺が話し役で彼女が聞き役だった。
天海は非常に優秀な聞き手だった。
適度に質問を挟むが、同じ質問は意図がある場合を除いては2度繰り返されることはなかった。
頭が良いことは大学の推薦の話で何となく察していたが、記憶力の良さは俺の想像を遙かに超えていて、内心舌を巻いた。
――ただし、この件に関しては、半年以上経ってから真相を知ることになる。
彼女は、俺と電話で話すときは必ずノートとシャーペンを用意してメモを取っていたというのだ。
「聞いたこと全部覚えておくなんて無理。だって、ほとんどが新しい情報なんだよ? だからね、メモ、取ることにしたの。目の前にいたらそれも失礼なんだろうけど、ほら、電話だし。聞いた話を極力メモってね、電話を切った後に大事だと思えることや人名は覚えるようにして、次に電話をかける前にはそれを見直してたよ」
つまるところ。
俺の彼女は学力的な意味での頭の良さはもちろんのこと、本質的に賢い人間なのだった。
俺が話す内容は、そのほとんどがバレーの話だった。生活の中心がバレーなのだから必然的にそうなる。
インターハイと国体、この2つの大会で天海は白鳥沢のバレー部員も何人か顔を覚えているようだった。
俺を除いて1番覚えているのは、ポジションの関係だろう、どうやら瀬見と白布らしい。
「そこがね、俺としては納得いかないんだよね!」とは天童の怒りの言。
「俺、若利くんとありさちゃんがくっつくのに多大なる貢献をしたと思うんだけど!」
口を尖らせて不満を垂れた天童に、俺は俺の不満を告げる。
「天童、それはやめろ」
「何が?」
「天海の呼び名だ」
「ありさちゃん?」
「…おい、天童、若利の言うこと聞けよ。すげー睨まれてっぞ」
練習前、ジャージに着替えながら俺たちは今日も前日の俺の電話のことを話す。