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【HQ/R18】二月の恋のうた

第9章 恋の季節(2)


いつもどおり夕食を摂り、3年の先輩たちの後で風呂に入って、俺は部屋に戻った。

この段になっても電話を掛けることに緊張はしていない。
不思議なことに、風呂上がりに別れた山形と瀬見は俺の代わりに緊張していたようだった。

ベッドに腰掛け、首から掛けたタオルで髪を2度3度と拭く。同時に、左手で携帯の画面ロックを解除した。

着信の通知はない。やはり、メールの返信は来ていないのだ。

(それほどまでに怒っているのか?)

あるいは…泣いているのか。
部屋を出て行く際の仕草が今もまだ胸に残っている。

1つ、深呼吸をした。
それから携帯のアドレス帳を起動させる。
登録名は「天海」。
綴られた番号の部分を押下した。

断続的な信号音。そして、唐突に流れ始める呼び出し音。

1回…2回…3回…。

『…もしもし』

4回目で待っていた声。
出た。
話をするために電話を掛けた俺だが、なぜか、口を噤む。

『…牛島くん?』

先に言われた。
瞑目して、俺は息を吸う。
仕切りなおす。

「牛島だ。突然電話を掛けてすまない」
『ごめんなさい、このままちょっと待っててください』

僅かなノイズを背景に、いつもよりも硬質な声色。
見えない壁を作られたような感覚に、足元からすっと冷えていく思いだった。

だが、数秒して再び電話口に出てきた天海は、先ほどとは異なった柔らかい口調になっていた。

『お待たせ。ごめんなさい、出先で…』

俺は、壁の時計を見上げる。
いつも掛けている時間帯よりも早い。遅くなってはと思い掛けたのが裏目に出たようだ。

「こちらこそ、すまん。掛け直す」
『ううん、このままでいいです。…牛島くん』
「なんだ?」
『この間はごめんなさい』

先を越された。
俺は開いていた口を一旦閉じる。

天海には常に速攻を決められている印象がある。

『混乱していたのもあって、随分と子供じみたことを言いました、私』
「いや…俺の方が悪かった」

すんなりと詫びの言葉が口を衝く。
天海は、だがしかし、俺の謝罪を受け入れなかった。

『…やっぱり私が悪かったです。ちょっと…その…牛島くんが…牛島くんの…あの…キスで…動揺して…』
「動揺させたのか?」
『…まぁ…』
「すまなかった」

俺は“あの時”のことを思い出す。

「お前の過去の川西に、苛立った」
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