第9章 恋の季節(2)
「若利が――天童の言葉を借りるなら――“覚醒”したとなると、だ」
山形がトレイを脇に退かしながら前のめりになって話し出す。
…ごく偶に、試合中、山形を“攻撃的”だと感じる時がある。リベロだというのに。
そんな時の顔つきを今の山形はしている。十二分に信頼に値する顔つき、だ。
「今、若利にとって最も重要なことは天海さんの誤解を解くことだ。その話をしよーぜ」
「そだね。若利くんの気持ちはひとまず置いておいてさ、まずは若利くんが謝らないと」
第1案は天童から。
俺は大平を見やってから話す。
「それは、昨日、大平にも言われた」
「んで?」
「昨日のうちにメールをしておいた」
「…返事はあったのかよ」
瀬見の当然の問い。
俺は視線を転じて、反射のような素早いタイミングで答える。
「ない」
「ドヤるな…」
「…瀬見。前から気になっていたんだが…」
「おぅ、なんだ」
「ドヤるとはどういう意味だ?」
「――自慢げにしてる、って意味だ!」
「瀬見、うるさい」とは冷静な添川。
「あと、立ち上がんなよ、座れ」
「若利が送ったメールの内容確認は後回しにして、だ」
ミーティングを仕切るように山形が話を戻した。
瀬見も、真後ろの席にいた他の運動部の男に軽く頭を下げてから着座する。
「直接謝りに行くってのは距離的に無理だ。次善の策――獅音」
「名指しされてもな…直接電話するしかないんじゃないか?」
「あっ、それ、俺も考えた。でもさ、着拒とかされたらどーすんの? 立ち直れなくない?」
「あくまで若利の主観的な人物像に拠るが、天海さんはそういう感じの人でもないだろう」
目で「どうだ?」と聞かれて俺は一も二もなく頷く。
着信拒否をするくらいならば電話に出て「掛けてくるな」と言うだろう、天海は。
曖昧になどさせない。
俺は、天海のそんなところも――好きだ。
「じゃあ、獅音の案で行こう。今日の夜にでも電話かけろよ、若利」
首を縦に振ると、瀬見が重々しくため息。
「まったく、ようやく付き合い始めたかと思えば早々にコレとか。この先、キス1つすんのに何ヶ月かかるんだかわかんねーな」
「…昨日したが」
何か心配しているようにも聞こえたので、俺は言った。
一拍置いた次の瞬間。
瀬見が吠えるような声を上げ、今一度、添川に注意されたのだった。