第8章 恋の季節(1)
お昼過ぎのカラオケボックスは混雑していて、ロビーには順番待ちのグループが数組たむろしていた。
その中を颯爽と歩いて天海が1人で受付へ。
視線だけで辺りを見回すと、何人かの男が彼女を見ていた。
インターハイの時から会うたびに思わず天海を見ていた俺だが、この時、そんな風に惹きつけられるのは俺だけではないのだと認識した――納得する気持ちの片隅で、言い様のない危機感に似た苛立ちのような焦るような、そんな感情が湧き起こった。
「5階。518号室だって。…牛島くん?」
伝票を持ってきた天海が俺を見上げて表情を曇らせる。
「どうかした?」
「いや。5階だったな」
俺はお茶を濁してエレベーターへと向かう。
俺たちを含めた数組が乗り込んだエレベーターは低層階でも小まめに止まり、5階に着く頃には俺と天海だけになっていた。
「518号室」
天海の案内でたどり着いた部屋はこのフロアの1番奥だった。トイレは反対側の奥なので、人が通りかかることもまずもってない位置だ。
集中して試合を観るには適している環境だな、と思った。
部屋に入ると天海はメニューを俺に渡して「最初の1ドリンク、決めておいて。私、DVDの準備するから」とテーブルの上に置いたバッグの中を開けていた。
俺は、ソファに座ってその姿を見つめていた。
「あった。えっと、中に入れて…どうしたの、牛島くん」
取り出したDVDをしゃがみ込んでプレイヤーに入れて、振り返ったところで天海が俺に気づいて訝った。
俺は率直に答える。
「テキパキと、手慣れているなと思っていた」
「ありがとう。それ、実はよく言われるの」
苦笑して、天海は手に取ったリモコンで入力切替を押下して画面をカラオケ用からDVD再生用へと変更させた。
ついでに、そのリモコンでドリンクもオーダーする。
「試合、うちの県予選の決勝。それから、この間の国体の優勝校、あそこのインターハイの映像も手に入れられたから持ってきたの」
俺は感嘆そのものの口調で彼女を賞賛した。
「よく手に入れたな、そんなものを」
「こう見えて、顔、広いの」
喜色を言葉の端々に滲ませて、天海は立ち上がるとリモコンをテーブルの上に置きながら回り込んで――俺の真横に座った。