第8章 恋の季節(1)
春高の宮城県予選は10月末に行われる。
もっと正確なことを言えば、1次予選は8月に開始している。俺たち白鳥沢学園はインターハイの宮城県大会優勝校であるため、その1次予選は免除だ。
9月末の国体が終わってから春高予選までは1ヶ月もない。
実践を忘れぬようにとこの時期は週末ごとに春高対策の練習試合が行われるが、今週、国体直後の土曜日は午前が軽い自己練のみ、午後は休養日に当てられていた。
駅の階段をいつもの癖で大股気味の1段抜かしで上がり、俺は新幹線用の改札へと向かう。
時間的には既に着いているはずだ。
――今日、天海と会うことを話した時に、驚いた天童が真っ先に聞いてきたことは会う場所だった。
「なに、天海さん、こっち来るの?」
俺は「あぁ」と首肯した。
会う約束が決まったのは天童たちに話した前夜のことで、「外出できる休みはその日しかない」と俺が伝えたところ「じゃあ、会いに行くね」と天海が言ったのだ。
「若利、土曜午前、自主練出るんだよな?」
大平の後ろから添川が確認してくる。
「…出るが?」
「若利くん…外“出”届だけ?」
「おい、天童っ」
「そうだが…?」
「…天海さんの方は? 日帰り?」
「翌日用事があるので遅くなる前に帰ると言っていた」
「つまり、なんだ、天海さんは若利に半日会うためだけに来るのかよ…」
「そういうことになるな」
レシーブ練習のように、次から次へと飛んでくる質問に俺はすべて答える。
全部返し終わったところで、天童が呟いた。
「愛だね、愛」
「しっかし、半日ってなると仙台観光とか無理だろ」
「行く場所はもう決まっている」
「どこどこー?」
「カラオケだ」
「カラオケ⁉︎ …お前っ、カラオケで何歌うんだ⁉︎ 校歌以外歌えんのか⁉︎」
「歌う? …向こうの県大会の試合DVDを見せてもらう予定だが」
妙な空気になったところで、天童が再度呟いた。
「愛…って言っていいんだよね、コレ」
賑やかなやりとりは、デニムのポケットが震えたことで記憶の中に戻って行った。
どうやら着いたらしい。
携帯を取り出しながら改札に目を向け、俺は軽く息を飲む。
ちょうど改札から出てきた天海は、当たり前だが、私服姿。
俺を探しているのだろう、周囲を見渡す彼女に、俺は数秒間魅入った。