第8章 恋の季節(1)
何度かの微調整の末にそれでも噛み合わなかった俺たちの会話について、練習後、大平が淡々と私見を語った。
「まあ、あえてどちらかと聞かれれば…若利が女性に興味があるようには見えないかもな。会話のほとんどがバレーだからなぁ」
「デショー?」
「とは言ったが、お前らから聞いた若利と天海さんとのやりとりは、女性に興味がない人間のもんでもない、か」
「むむっ。これは1勝1敗の引き分け?」
練習後、体育館から出て先頭を歩く天童とその後ろの大平の会話を塊になった2年全員で聞く。
「天童、そもそも、女への興味の有無というのは重要なことか?」
最後尾の俺は、大平の発言から自分の考えをまとめた上で言う。
この議論の発端が何であったか、それはもう誰も覚えていないので、俺は必要と思えることだけを仲間たちに伝える。
「俺が興味を持っているのはあくまで“天海”だ。他の女については興味も何も、正直どうでもいい」
全員が俺を見ながら、しばし沈黙。
最近、このパターンが多いように思えた。
「…で、若利くんは、その“興味を持って”捕まえた天海さんとどういう話をしてんの」
こちらを向いたついでに後ろ向きに歩く天童が問いかけてくる。
「電話で直接話したのはまだ2回だ。俺からは国体の結果と、それから、春高の県予選の詳細を伝えた」
「事務連絡か」
「天海さんは何て言ってたんだ?」
大平からは新たな質問。
「国体の結果については、残念だ惜しかった、と。春高の方は、日程的に余裕があればこっちまで来ると言っていた」
「余裕?」
「指定校推薦の校内選考の時期らしい」
「大学受験で指定校推薦か…そりゃまた」
「どこ受けるか聞いてんのか?」
俺は頷いて大学名を挙げる。
私大だが歴史もある、たぶん日本人のほとんどが名前を知っているところだ。俺たちのように高校バレーをやっている人間にとっては“バレーの強豪”としても知られている、東京の、大学。
天童の「…本当にハイスペック彼女だねぇ…」という独白に、山形の「居るところには居るもんだな」という独白が続いた。
「でも、若利くんが遠恋とはね…大変そう」
「大変なのはむしろあっちだろ」とは空を仰ぎながらの瀬見で「うち、休養日、ほとんどねーじゃん」。
俺は肩を竦めた。
「今週末にあるだろう。会うことになっている」