第8章 恋の季節(1)
「あ、牛島。彼女できたんだって?」
国体ベスト4という今一歩の成績を携えて母校に戻った俺を待っていたのは、“なかなか全国優勝できないバレー部”というチームに対する不本意な二つ名と、それから、顔見知りの運動部連中によるそんな言葉だった。
聞けば噂になっているという。
もちろん、噂の出処ははっきりとしていた。
「いいじゃん、おめでたいことなんだしさ」
コート外で利き手のテーピングを器用に行いながら“出処”が何事でもないように言う。
すぐ横では瀬見がシューズの紐を結びながら「俺は止めた方だからな」と言い添えていた。
俺はドリンクを飲み下してから彼らを見やった。
「…なに、もしかして若利くん、怒っちゃってる?」
「いや、怒ってなどいない。ただ…」
「ただ?」
「これは“おめでたいこと”なのかと考えていた」
やって来た1年の持っていたボトルと自分が手にしていたキネシオテープを交換し、天童は笑いをこらえるような顔で俺を見る。
「女の子に興味なさそうな若利くんに彼女ができたんだよ⁉︎ おめでたいことデショ」
俺は眉間に皺を寄せた。
「天童、お前は何か誤解している」
「何を?」
「俺は、興味がないと言ったことは1度もないはずだが?」
「俺も、興味“ない”とは言ってないんだけど。興味“なさそう”って言ったんだけど。――あのさ、若利くん。たとえばさ、ここに野球部から回ってきた無修正AVとバレーの全日本ユースの練習試合DVDがあったらどっち取る?」
俺は断言する。
「野球部からバレーの試合DVDが回ってくることはない」
天童が真顔になった。
「そこ、論点違う」
「まどろっこしい会話してんなよ」
そう言って話に入ってきたのは、立ち上がった瀬見。
「若利、お前の目の前に無修正のAVと全日本ユースの練習試合DVDがある。お前、どっちを見る?」
「AVに興味はない。俺は写真集派だ」
「…選択肢、変えてやる。目の前に、お前の好きな――」
「天海さん、の」
「天童、それはさすがに生々しい。――お前の…お前の好みのタイプのすっげーそそられる写真集と、全日本ユースの練習試合DVD、この2つがあったらお前はどっちを選ぶ?」
「ユースのメンバーは?」
「詳細求めるな!」
「英太くん、やっぱり話進んでないんだけど」
唾を飛ばす瀬見にまだ真顔のままの天童が言った。