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【HQ/R18】二月の恋のうた

第7章 ちいさい秋見つけた(3)


数回の瞬きを経て、彼女の瞳はゆっくりと俺のところへたどり着く。

大きな澄んだ眼。
間近で改めて見ると、その黒い瞳に俺の姿は全部入ってしまいそうだった。

“小顔だから目がでかく見えんのかもだけど”

瀬見の言葉が脳裏を掠める。
注視すると、確かに、先ほどまで俺の前にいた女たちよりも1回りは小さな顔立ちをしているように思えた。

“小顔じゃないですか、牛島さん”

白布の言に遅ればせながら賛同する。
うちのセッターたちの観察眼は鋭い。

「あの…牛島くん…ごめんなさい…」

改めての謝罪に俺は返す。

「言いたいことはそれだけか、天海」

双眸に動揺の色が浮かぶ。
違う、と俺は自分の言葉が上手く伝わっていないことを感じる。
すぐに言い直す。

「俺に伝えたいことは本当に“それ”なのか、天海」
「私は…」
「目を逸らすな」

逃げそうになる彼女を捕まえる。

彼女の瞳が揺れ惑う。
俺は、ただ、待つ。

「牛島くん…」
「何だ」
「…牛島くんって、怖いね」
「そうか…?」
「あと、結構、強引なんだね」
「時々、周りに言われる」
「牛島くん…」
「何だ」

天海が、このタイミングで深呼吸をする。
大きく、ゆっくりと。

それが終わった後に――彼女の様子が変わった。
落ち着きを取り戻し、挑むような、強い光が瞳に宿った。

俺の知っている天海がいた。

「牛島くん…私、牛島くんを初めて見たときに『綺麗だな』と思いました」

俺は、彼女の視線と言葉を受け止める。

「あぁ、聞いた」
「私、牛島くんをずっと見ていたいと思いました」
「それも聞いた」
「だから、ずっと見ていました」

それは、初めて聞く。

「試合の度に、牛島くんだけ見ていました。牛島くんしか見れませんでした。――私ね、牛島くん」

天海が、微笑む。
俺へ向けて。

大きい瞳に、整った鼻梁、ふっくらと艶やかな唇。
小さな輪郭の中に収まった、絵画のように美しいかんばせ。

俺の胸の中心を射抜く微笑み。

「あなたが好きです」

耳朶の奥に、涼やかな彼女の声が不思議な音色で降りてくる。
それが、胸の真ん中、射抜かれた場所に沁み入っていく。

好きです。

そのたった一言が、玲瓏たる響きの一言が、俺の中で温かい灯をともした。
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