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【HQ/R18】二月の恋のうた

第7章 ちいさい秋見つけた(3)


小走りとも言えないが普通に歩くよりは早い速度で歩み寄り、俺は天海の目の前に立った。

天海は無言のまま俺を迎えた。
傍らの背広の男性の方は、俺と彼女を交互に見てから「ちょっと、他の連中に連絡取ってくるな」と空気を察した様子で席を外す。

俺はその男性を一瞥で見送ってから天海に声をかけた。

「天海…来てたのか」
「…ついさっき」

天海は、ロビーの一角、時計へ目を向ける。

「1時間ほど前に」

俺も導かれるように時計を見やった。
試合の準備練習までまだ時間はある…俺はそのことを確認してからすぐさま天海に向き直る。

「あの、牛島くん…」

一瞬、言い淀む天海。
瞬きながら、時計から戻した視線は斜め下へ。
どこか言いにくそうな感じだ。

「なんだ?」
「怒っているよ…ね?」

意外な質問に、俺は質問で返す。

「…なぜそう感じる?」
「すごく…険しい表情しているから…」

険しい顔とは。
時々、大平に「そんな顔しても」と言われるが、俺自身は“それ”がどういう顔なのかはわからない。
答えずにいると、
「…告白、邪魔しちゃったもんね…」
と、天海は小さな声で言った。

「あれは関係ない」

そう言う俺の声は、天海とは対照的に、強く大きかった。

「そっか…」
「そうだ」
「…あの、私、謝らないといけないことがあるの…」
「何だ?」

尋ねながら、俺は、この会話の最初から俺に付きまとっていた微妙な違和感に気付く。

――天海が、どこかよそよそしい。

現実的な自分と彼女の距離感以上のものが存在している感覚。

(視線、か)

天海は、俺が目の前に来てから、なぜか、1度も目を合わせない。
初めて会った時から俺を捉え、射抜いてきた、あの眼差しが、今日は1度もこちらへ向けられない。

俺を、見ない。

「あのね…牛島くんの連絡先、わからなくなったの。ごめんなさい」
「わからなくなった?」
「…携帯ごと無くしちゃって…」
「見つかったのか」
「ううん。買い直した。連絡入れられなくてごめんなさい」
「天海」

俺は大きく息を吸う。

「俺を見ろ」

傍目にもそれとわかるほどに彼女が息を飲む。
俺は、静かにもう1度だけ繰り返す。

「ちゃんと、俺を見ろ」
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