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【HQ/R18】二月の恋のうた

第7章 ちいさい秋見つけた(3)


天海は微笑んだまま「聞いてくれてありがとう」と言った。
「午後の大事な試合前にごめんね」とも。

俺は率直に尋ねる。
「そこは…謝るところなのか?」
「だって、試合前に話すことじゃないから。本当にありがとう…じゃあ、ね」

すっきりとした表情が俺からの答えなど求めていないと告げている。
天海は、この出来事をもう終わりにさせようとしていた。

俺は立ち去ろうとする彼女の腕を掴む。

「待て」

ここで終わらせるわけにはいかない。
このポイントは、絶対に取らなければいけない。

「天海…携帯を変えたのだろう?」
「え…うん」

驚いているのか、天海の口調がいつもの砕けたものに戻った。
俺は、間をあけずに畳み掛ける。

「新しい連絡先を教えてくれ」
「えっ…?」
「連絡が取れなくなるのは、困る」

天海が困惑した表情をした。

「牛島くん?」
「俺は…」

この国体の成績を…。
言いかけた言葉を口の中に閉じ込めた。

成績を伝えられれば満足なのか、俺は。
…そうじゃないだろう。違うだろう。

“若利くんは、天海さんのこと、どう思ってるの”

いつぞやの天童の問い。

俺は、その答えを…胸に灯った小さなあかりを、いま、見つけた。

「――俺は、お前に、また会いたい」

困惑から驚愕へ。
天海が空気を変えて、俺を見つめ返す。
沈黙している彼女に、少し焦りが出てくる。

俺の言葉は伝わっているのだろうか?

以前と違って今度はメールではない。
送信未達はありえない。
目の前にいる。ここにいる。

俺は、きちんと伝えなければいけない。

「天海、お前は俺だけを見ていたと言った。だから、これからも俺だけを見ていろ……俺の声が届くところで」

彼女を取り巻く空気が、また変わる。
驚愕が和らぎ――天海は俺を見たまま、顔を赤らめた。

「天海…?」
「…牛島くんって…本当に、強引…」

耳まで真っ赤にした天海が、「携帯、取ってきます」と言うので俺は腕を離す。

顔を隠すようにして観客席に向かう彼女を見送り、俺は悩む。
返事を聞かなかったが…言いたいことは伝わっただろうか?

瀬見と共に後ろからやってきた天童は、そんな俺に笑顔で言った。

「若利くん、頑張ったで賞!」
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