第7章 ちいさい秋見つけた(3)
席を立った俺に、なぜか天童と瀬見がくっついてきた。
どうしたのかと聞くと、天童は「トイレ」と言い、瀬見は「天童の監視役だ」と言った。
トイレに監視が必要なのか。
不思議に思ったが、詳しいことは後で聞くことにして、俺は用事を済ませることにする。
2階のロビーは程よく人がいた。
午前中の対戦チームの何人かを見かけた。あちらも俺たちのことに気づいた様子で何か会話を交わしていた。
「こういう時って1番困るよね」
声を潜めた天童に瀬見も俺も頷く。
知り合いでもないから挨拶するのは変だが、だからと言って完全に無視というのもそれはそれで無礼な気がする。
「あっ! 牛島さんですよね⁉︎」
思いもかけない方向から声がかかった。
見やれば、セーラー服姿の女生徒が2人。
随分と高い声で盛り上がりながら俺の方へとやって来る。
「…牛島だが」
「ヤバっ、ナマ、超絶カッコいい!」
「私たち、さっき試合観てたんです。もう、ソッコーでファンになっちゃって!」
「そうか」
他に何と言っていいかわからないので、俺はそう答える。
後ろで、天童が「モッテモテ」と笑っていた。
「最初は相手を応援してたんですよー! 」
「第1セット、めっちゃバシバシ点決めて! 気持ち良かったしね」
「だよね!」
顔を見合わせながら女2人が騒ぐ。
俺は聞き流しながらも、なぜ、相手を応援していたことをわざわざ俺に言うのかと、そこが気になったりもした。
「でも、若サマが――あ、若サマっていうのは牛島さんのことなんですけどぉ」
「イヤですか、若サマとか言われるの」
またしても背後で、今度は天童だけではなく瀬見も一緒に笑った。
「若サマだって」
「俺ら、お付きの者か?」
「斬新だからうちの学校でも流行らせようよ」
俺は、目だけで後ろの2人を見た。天童と瀬見はすぐに黙り込んだ。
それを見届けてから、俺は騒々しいことこの上ない女2人へ自ら言葉を投げる。
「…俺に用があると聞いたが」
「用って言うかぁ…」
「え、聞いちゃう? いま聞いちゃう?」
「チャンスじゃん⁉︎」
「うっわ、積極的過ぎない⁉︎」
何でもいいから、今、聞いてくれ。
俺は無言の中でそんなことを思い、ふと、苛立っている自分を知る。
大きなため息をついた時のこと。
「あれ…天海さんだ」
天童の独白に意識を持って行かれた。