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【HQ/R18】二月の恋のうた

第7章 ちいさい秋見つけた(3)


白鳥沢は選手層の厚いチームだと言われている。
多少のメンバー変更があったとはいえ、俺たちはこの国体でもインターハイ同様に勝ち上がって行った。

世間はそれを「順当」と言い、俺たちは「当然」と称した。

どこかで会えると思っていた天海の姿は、あの後、まったく見かけなかった。

もっとも、まだ俺たち白鳥沢は勝ち続けているので、あの時に俺が思った「勝ち続けていればいつかは会える」という直感のような想いが正しかったのか誤っていたのか、その結論はまだ出ていなかった。

「若利くんって我慢強いよね」

国体3日目。
準々決勝のためにアップしている最中に、天童がそんなことを言ってきた。

試合前とはいえ、まだピリピリした雰囲気はない。
スパイクの順番待ちでの私語だが、鷲匠監督やコーチから雷が落ちそうな気配はなかった。

「我慢強い、とは?」
「んー、だってさ、若利くんってどう考えてもMじゃないでしょ。俺もだけど」

天童はいつものように前置きをしてから本題に入る。

「一昨日ニアミスった状態でさ、普通ならそこで連絡取っちゃうと思うんだよね。そこをあえて、あえて、だよ、連絡しなかったとしてもさ、その翌日に会えなかった時点で、ホテル帰ったら『会えなかったね』的なことはメールかスタンプするでしょ」
「それが一般的なのか」
「一般的というか、よくあるパターンというか――あ、ごめん、俺の番」

話を切って天童は体勢を整えてから助走に入った。
クロスに1本決める。
俺も続いて、助走、跳躍、アタック。
ライト側からのボールを、狙ったとおり天童と同じクロスのコースへ。
弾道を最後まで確認してから、また、スパイクの順番列に並ぶ。

「天海さんの方から連絡はなかったのか?」

やって来た大平が俺の後ろに並んでそんな質問を投げてきた。
さっきまでの天童との会話を聞いていたのだろう。
天童ならまだしも、大平がこの手の話題を練習中にしてくるのは珍しい。俺はちょっと驚きながら首を縦に振った。

「何もなかった」
「そうか…何かしらの連絡はくれそうなものだけどな」
「忙しかったんじゃない? 一昨日見かけた時はすごくバタバタしてたよん」

天童は両手を腰に当てて「このまま会えないなんて展開になったりしてね」と呟く。
俺は天童を見やって言った。

「そうならないためにも、次も勝つ」
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