第6章 ちいさい秋見つけた(2)
初日の試合に俺たちは危なげなく勝利した。
圧倒的なスコアでのストレート勝ちで、その大半は俺のスパイクによるポイントだった。
終了直後に天童が
「若利くんって本当に頼りになるのね」
と言っていた。
「天海さん、カッコいい若利くん見てたかな?」
そんなことまで天童は言う。
聞けば、ほとんど出番のなかった後半は、可能な限りギャラリーへ目を向けていたのだとか。天海の姿を確認するために。
それなりに広い会場、加えて試合中のこと。
ざっとしか見れなかったが見つけ出すことはできなかったという。
「自分のところ以外の観戦ともなれば時間を取るのも難しいだろうな。ましてや、他の会場にまで行っているんだしな」
大平のその言に、俺もまったく同意見だった。
――そう思っていたがために、ホテルへ引き揚げる直前に天海の姿を見かけた時には驚いた。
と同時に…安堵のような不思議な気持ちも抱いた。
「若利、あそこ」
俺の、肩にかけたバッグを引っ張った瀬見が視線を誘導させる。
2階へ向かう階段の踊り場に天海がいた。
インターハイの時とほとんど同じ格好だった。
今日は、ジャケットを羽織り、ネクタイも締めている。髪も垂らしており、そうしていると結い上げている時よりも少しだけ大人びて見えた。
…いや、大人びて見えたのは、その表情からかもしれない。
一緒にいる女子生徒と、それから教師だろうか、背広姿の男性と、真剣な面持ちで話し込んでいた。
「あれは“お仕事中”かな?」
天童が言う。
おそらくはそうに違いない。
まるで、真剣勝負…バレーの試合中のような表情だと俺は思い、すぐに思い直した。
きっと天海にとっては、“試合中のような”ではなく“今が試合中”なのだろう、と。
「凜としてるねぇ」と天童。
「なんか、カッコいいな」とは瀬見。
2人の言葉は異なっているが、俺はまとめて
「そうだな」
と答えた。
それから、意識せずにこんな言葉を口にしていた。
「見惚れるな」
「若利くん、声掛けていかなくていいの?」
天童が尋ね聞き、瀬見も目で問うてくる。
俺は、考えることなく頷く。
「あぁ」
試合は明日もある。
俺が勝ち続けていれば…会えるはずだ。
確信もなく俺はそう思い、会場を後にした。