第6章 ちいさい秋見つけた(2)
国体は、30以上の競技を対象としている国内最大級のスポーツイベントだ。
開催期間中、開催県の至る所で各種競技が行われる。バレーボールは開会式の翌日から4日間、県内第2の都市にある中央総合体育館で試合が実施される。
「初戦ってさー、緊張するよねー」
初日。
ユニフォームのパンツに両手を突っ込んで位置を調整しながら天童がそんなことを言う。
横で軽いストレッチをしていた大平が、
「緊張してないだろう、お前は」
と聞くと、天童は、
「うん。だってさっきの一般論だもん」
と、平然と言う。
2年のうち、俺を含めたこの3人が初戦のスタメンだ。
東北ブロック代表として参加する俺たち白鳥沢は、予定ではインターハイの時と同一のチームで試合に臨むはずだった。
アクシデントが起こったのは試合前日、開会式後の練習で。
3年のレギュラー1人が膝の古傷をやってしまったのだった。
ひとまず、大平が代わりにスタメンに昇格。
初戦の相手は選抜チームであるため、いざという時のコンビネーションに乱れが出そうだと、天童もブロック要員としてスタメンに起用された。
「お前の鋼の心臓が羨ましいよ」
そんな風に大平が言ったので、天童が口の両端を吊り上げた。
「獅音だって緊張なんかしてないくせに」
「今回は、な」
「まー、賢二郎入れて1〜2年が合わせて4人。こんだけいると紅白戦より気は楽だよね」
天童の言いたいことも何となくわかる。
普段、練習時に行う紅白戦では、場合によっては3年の中に1人で入ってプレイすることもある。
負けたら相応のペナルティが課されるため、却って緊張すると、以前、山形が言っていた。
「若利くんはさー、緊張することってあるの?」
天童が水を向けてくる。
「ある」と即答した。
「たとえばどんな時?」
「朝食で出されたヨーグルトの蓋を開ける時は緊張する」
「…あ、そう」
聞いてきたくせに、流すように天童が短く返した。
「そろそろ移動するぞー」
コーチからの声に全員が返事をする。
俺は、何の気なしに壁の時計を見やった。
「天海さん、来てるといいねー」
天童がそんなことを言う。
俺は「別にどちらでも構わない」と。
「初戦だ。これが最後の試合というわけではないからな」
「強気だね、若利くん。勝って当然、って?」
俺は首を縦に振った。
「当然だ」