第6章 ちいさい秋見つけた(2)
予想外のメールに、意識が手元の携帯画面に集中する。
前夜のやりとりは、俺が最後に送った
「明日、現地入りする。以上だ」
でキリよく終わっていた。
改めて天海の方から連絡をもらう理由など――
(…試合に来れなくなった、というならありえるか?)
今しがたのチームメイトたちの会話が新たな可能性を想起させる。
俺は、携帯を持った左手の親指でメール着信の通知バーをタップした。すぐにメールアプリが起動して、天海からのメール内容を開示する。
「どうした、若利」
黙り込んだ俺が気になったのだろう、後ろのステップに立っている山形が聞いてくる。
俺は携帯画面から目を離さずに答えた。
「天海からメールが来た」
話を聞いた1段下の瀬見が何か言ってきた。
上手く聞き取れなかったが、話された内容の確認よりも俺は天海のメールを読むことを優先する。
『牛島くん』――出だしはいつも同じ。
『現地にはもう着きましたか?』
あぁ、と思わず声に出して答える。
頭の中で、辿る文章が彼女の声で自動再生されているからだろう。
『うちは当日朝の移動なので、いま正に大忙しです。
明後日のバレーの試合、
すごく楽しみにしています。
この間のメールで伝え忘れたのですが…
私は、牛島くんの試合姿が本当に好きです。』
文面を追っていた目が、1点で止まる。
好きです。
記憶のアーカイブから、天海の声が1つの台詞を掘り起こしてくる。
“私、今は牛島くんのことが好きなの”
…これは、もう1人の“川西”に彼女が言った台詞。
あの場限りの嘘。
(嘘、か…)
俺は、気持ちがストンと収まるべき場所に収まったような感覚を抱きつつ、メールの続きを追った。
『上手く言えないのがもどかしいのですが…
常に真っ直ぐな牛島くんの姿を
また見ることができると思うとすごく楽しみです。
それでは。
明後日、会場で会えることを願って。』
「若利、足下っ」
意識に、山形の声が割り込んできた。
顔を上げるとエスカレーターの終わりがすぐ目の前だった。間に合わずに躓きかける。
「大丈夫か、若利」
大平の気遣いを片手で制すると、エスカレーターを降りてきた天童が
「天海さん、何だって?」
と、先を行く先輩たちを気にしながら小声で尋ねてきた。