第6章 ちいさい秋見つけた(2)
移動すんぞー、という先輩の声に短く返事をしてから天童が言う。
「他の競技って、なに、若利くんライバル出現?」
俺は首を傾げて、逆に天童に尋ねる。
「ライバルとは?」
「応援、取られちゃうよって話」
「取られる?」
「――俺らの初日って何に重なってんだ?」
俺の疑問を無視して瀬見が周りに聞く。
大平と話していた山形が会話を切って答えを提示してくれた。
「サッカーとかテニスとか」
「サッカーはヤバイね…人気スポーツじゃん」
天童が走ってきた子供を器用に避けて歩きながらそんなことを言う。
俺は再度口を開いた。
「サッカーは人気だな」
「天海さん、サッカーに取られちゃうよ⁉︎」
「天童、さっきから意味がわからない。…天海は弓道に行くとも言っていた」
「なんだ! 若利くん、知ってんなら最初から『他の競技』なんて回りくどい言い方しないでよ!」
「弓道以外にも、卓球を覗くと言っていた…」
「へー、随分と行動範囲が広いな、天海さんって」
エスカレーターに乗り込んだ瀬見が半身をこちらに向けて言った。
昨日の俺が最初に抱いた感想とまったく同じだ。
「弓道は元部員として自発的に行くが、他は仕事みたいなものだと言っていた」
「仕事?」
「生徒会で行く必要があるらしい。この国体が終わるまでは生徒会長だそうだ」
たっぷり時間を空けて、話を聞いていた2年全員が同じ言葉を唱えた。
「はぁっ⁉︎」
改札階へ向かう階段を降りていたスーツ姿の男が、びっくりした様子で俺たちを見た。
「女生徒会長とか…」
「さすが若利くんの彼女、ハイスペックすぎ…」
独白が2つ、耳に飛び込んでくる。
俺はそのうちの1つ、天童のそれに対して、誤りを指摘した。
「彼女ではないが…」
「はいはい、彼女候補ね」
「彼女候補でも…」
「そういうこと言ってると、本気で英太くんに取られるよ!」
急に名前を出された瀬見が迷惑そうな顔をした。
「天童、火のないところに煙立てんな」
「ファイアーマン・サトリって呼んでよ!」
「それは消防士だぞ、天童」
「鎮火させてんじゃねーか」
「着火マン天童とかどーだ?」
「隼人くん…」
うるさい、という前方にいる先輩からの注意と同時にポケットの中から振動が伝わってきた。
携帯だ。
取り出して覗いた画面には「天海」の文字――。