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【HQ/R18】二月の恋のうた

第5章 ちいさい秋見つけた(1)


練習を終え、寮で夕飯を取り、先輩たちに続いて風呂に入り…俺は自室のベッドに腰を下ろす。

傍ら、手から離した携帯の画面には未送信のメッセージ…書き終わったものの、まだ送信ボタンは押下していない。

思えば、日常的にあまりメールのやりとりなどしていなかった。

連絡を付けたい相手は、身内以外ではほとんどがこの白鳥沢にいる――要はバレー部員だ。
メールなど送らずとも直接話すか電話で用が足りている。

2年全体の連絡網なるものもあるが、これは添川や大平が連絡事項を流してくるので、俺は「わかった」の一言ぐらいしか返していない。

つまるところ、書いてみたはいいが、果たしてこの文面で問題ないのか、その部分の判定ができない。

“難しく考えることはないんじゃないか?”

夕食時、大平はそんな風に言っていた。
構える必要はない、と。

“時候の挨拶は要らないからね、若利くん”

天童からはそんな助言。
参考にして、書き出しは『白鳥沢の牛島だ。夜分遅くにすまない』としてみた。

続く言葉で、報告と謝罪――。

『連絡が遅くなってすまない。
既に結果を知っていると思うが、インターハイの時に約束した件、約束を守れなくてすまなく思っている。
以上だ。』

タイトルは「インターハイの結果について」。

(…これでいい、か…?)

正解はわからないが、何にしても送らなければ始まらないことはわかっている。
サーブを打たなければ試合は始まらないのと同じだ。

俺は、これ以上目を通しても時間の無駄だと察して、送信ボタンを押した。
マナーモードになっている携帯は、音一つ鳴らさずにメールを送信する。

(届くだろうか…)

送ったメールが。
迷うことなく彼女に。
アドレス間違いとやらで戻ってきたりはしないだろうか。

届くだろうか…俺の言葉は。

(約束…優勝…)

ベッドに横になり、天井を見上げる。
そのまま腕を伸ばし、左手を広げてから軽く拳を作るように握る。

この左手が、あと数本…いや、あと1本、チャンスの時にスパイクを決めていれば。ブロックを決めていれば。
あるいは。

(届いただろうか)

山の頂きに。

握った拳をそっと降ろし、額につけて俺は目を閉じる。

…携帯が震える音がした。
俺に携帯を手に取り、画面を覗く。
送信先不明、ではない。

『メールありがとう』
――彼女からの返信だった。
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