第5章 ちいさい秋見つけた(1)
練習を終え、寮で夕飯を取り、先輩たちに続いて風呂に入り…俺は自室のベッドに腰を下ろす。
傍ら、手から離した携帯の画面には未送信のメッセージ…書き終わったものの、まだ送信ボタンは押下していない。
思えば、日常的にあまりメールのやりとりなどしていなかった。
連絡を付けたい相手は、身内以外ではほとんどがこの白鳥沢にいる――要はバレー部員だ。
メールなど送らずとも直接話すか電話で用が足りている。
2年全体の連絡網なるものもあるが、これは添川や大平が連絡事項を流してくるので、俺は「わかった」の一言ぐらいしか返していない。
つまるところ、書いてみたはいいが、果たしてこの文面で問題ないのか、その部分の判定ができない。
“難しく考えることはないんじゃないか?”
夕食時、大平はそんな風に言っていた。
構える必要はない、と。
“時候の挨拶は要らないからね、若利くん”
天童からはそんな助言。
参考にして、書き出しは『白鳥沢の牛島だ。夜分遅くにすまない』としてみた。
続く言葉で、報告と謝罪――。
『連絡が遅くなってすまない。
既に結果を知っていると思うが、インターハイの時に約束した件、約束を守れなくてすまなく思っている。
以上だ。』
タイトルは「インターハイの結果について」。
(…これでいい、か…?)
正解はわからないが、何にしても送らなければ始まらないことはわかっている。
サーブを打たなければ試合は始まらないのと同じだ。
俺は、これ以上目を通しても時間の無駄だと察して、送信ボタンを押した。
マナーモードになっている携帯は、音一つ鳴らさずにメールを送信する。
(届くだろうか…)
送ったメールが。
迷うことなく彼女に。
アドレス間違いとやらで戻ってきたりはしないだろうか。
届くだろうか…俺の言葉は。
(約束…優勝…)
ベッドに横になり、天井を見上げる。
そのまま腕を伸ばし、左手を広げてから軽く拳を作るように握る。
この左手が、あと数本…いや、あと1本、チャンスの時にスパイクを決めていれば。ブロックを決めていれば。
あるいは。
(届いただろうか)
山の頂きに。
握った拳をそっと降ろし、額につけて俺は目を閉じる。
…携帯が震える音がした。
俺に携帯を手に取り、画面を覗く。
送信先不明、ではない。
『メールありがとう』
――彼女からの返信だった。