第33章 ★ボーナストラック
一瞬の間。
天海が、徐々に大きく目を見開いていく。
俺は俺で、彼女のその反応に驚愕する。見た動画の中では、似たような台詞を言っていたはずだが…?
一言一句同じではないだろうが、女優は意図を理解し、首を縦に振って迷いなく男の上に跨っていた。
天海のように面食らったりはしていなかった。
「天海?」
俺の胸に乗せていた彼女の両手首を俺は掴み、行動を促すように引っ張ってやった。
それでも、天海は唇を引き結んで何も言わず、動きもしない。
俺は念のため尋ね聞くことにした。
「嫌か?」
「若利くん…」
「なんだ」
「また、天童さんからDVD借りたでしょ…」
天海の勘の良さに内心舌を巻く。
「借りてなどいない」
返答に嘘は微塵もない。
天童はいつも「返さなくていいから」と一方的に置いていく。借りた覚えはない。
「嫌か、天海」
再び、問うた。
「下から舐められるのが嫌だというのならば、いつものようにお前を下にして――」
「バカっ!」
つい数分前に聞いたのと同じ言葉を、今度は何倍もの大きさで言い放った天海は、泣き出しそうな顔でそれ以上は何も言わずに上体を起こした。
そして、膝立ちのまま進み、俺の顔の前で止まった。
すべてをさらけ出したまま。
「これで…いい…?」
消え入りそうな問いかけの向こうに羞恥が滲んで見える。
俺は
「あぁ」
と頷いて、掴んだままの彼女の両手首を引いた。
情事の度に見ている、今日に限って言っても初めて目にするわけでもないその場所は、普段の情事の時とは異なり、彼女の身体が影となってあまりよくは見えない。
ただ、覗く深淵からは彼女の蜜がため息のように静かに溢れ出ているようだ。
汗の匂いに混じった彼女の濃く甘い香りが脳を痺れさせる――俺は、唐突に、激しい喉の渇きを覚え、彼女の両手首を強く握ると“そこ”にむしゃぶりついた。
「あっ…!」
小さく声を発した天海は、次の瞬間、俺の唇が為す荒っぽい口づけに高く鳴く。
「あ、やぁ、あ、あぁぁっ!」