第33章 ★ボーナストラック
その現象を…感覚を、何と呼ぶのか俺は知っていた。
それは、試合中に時々覚える感覚だ。
ネットを挟んだ向こう側、敵対する相手に「何としてでも勝ちたい」と心底思った時の、全身の血が湧き踊る感覚だ。
俺は、それをいま、天海に対して抱いている――彼女を支配したいと願い、そうなった時のイメージに興奮している。
「天海」
上体を起こして手を伸ばし、俺は彼女の手首を掴んだ。
そして、自分の方へと引き寄せた。
為されるがままに彼女は俺の上へと倒れこむ。
少しべたついた肌に彼女の温もりが重なる。柔らかい感触を伴って。
喉を鳴らして俺は、起き上がろうとする彼女の後頭部へ手を回し、その唇を吸った。
「ぁ、んっ…」
びくりと揺れた彼女の、乾ききっていない髪の毛先が俺の肌に触れ、表面を撫でてくすぐる。
一旦唇を離せば、絞り出すような「ぁ…」と震えた吐息。
煽られた。
俺は天海の唇を、先ほどよりも強く、噛み付くように、貪った。
「ぁ…はぁ…若、利く…っ」
リップ音に絡まるように囁かれた彼女の声音による俺の名前は今日だけでも幾度となく耳にしている。それなのに、飽くことはなく、この少し苦しげな詰まった音の羅列は、どうしようもなく狂おしく俺を急かし掻き立てる。
「天海ッ…」
名を呼び返して、挿し入れた舌を遊ばせた。
密着した身体が鋭敏に跳ね、その手応えが俺の中の獣じみた部分を過剰に悦ばせる。
もっと。
走り出した欲望に忠実に従って、彼女の歪みない真っ直ぐな背骨を指先で撫で降りた。
それだけで揺れる身体は淫乱で、俺の下半身にも熱が集まる。
尾てい骨までたどり着いた指で割れ目をなぞり、彼女が言葉に出さずに望んでいる場所へと進もうとした俺は、突如、脳裏をよぎったものが歯止めとなって手を止めた。
それは、先日、天童に押し付けられたDVDの映像。
「若、利、くん…」
動きの止まった俺を訝ったのだろう。
荒い呼吸で天海が話しかけてくる。
俺は、押さえつけていた彼女の後頭部から手を離し、彼女を自由にしてから熱を孕んで濡れた瞳を凝視した。
「来い、天海」
「えっ…」
「俺の顔の上に跨れ」