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【HQ/R18】二月の恋のうた

第33章 ★ボーナストラック


俺は、半ば呆然とした天海を――“らしく”もなくベッドの上に座り込んで裸体を晒しながら窓の外へ目を向けている彼女の、その白い肌とそこに俺自身が刻んだ激情の印を仰視し、おもむろに口を開いた。

「予定でも入れていたか?」
「え…」
「夜に別の予定でも入れていたなら申し訳ないと思っている。確かめずに抱いた。お前を抱きたかった。すまない」

天海が何も言わずに俺を見つめ返してきた。
その頰に、いや、顔全体に、一気に赤みが差す。

「…よ、予定なんて入れてないから大丈夫ですっ」
「次からは遠慮せず、最初に言ってくれ」
「何を⁉︎」
「もし、夜に予定を入れてきたならば…」

言い切るより早く、手近なところにあった枕を天海が俺に投げてきた。

予想外の動き。かつ、至近距離から。
さすがにブロックは無理だった。
彼女の渾身の攻撃は俺の顔に命中した。文武の「文」に一際秀でる彼女はコントロールが物を言うスポーツにも向いていると思わせた。
聞いたことはないが、バレーもそこそこできるに違いない。

「デートの日の夜に予定を入れてくる人なんていません!」

枕に次いで、本来俺が使うべき敬語が、やけに刺々しい空気に包まれて飛んでくる。
当てられた枕を横へ退ければ、唇を真一文字に結んだ険しい表情の天海に遭遇した。…どうやら俺は、彼女を怒らせてしまったらしい。

「天海」

すまない。
そう言いかけたのだが、あからさまに頬を膨らませた彼女の姿に、謝罪の言葉ではなく笑声が漏れた。

「…なに?」
「いや。綺麗だなと思った」

心が、するりと、偽りない本心を告げた。

「お前のどんな表情も俺を見惚れさせるに十分なのだと、改めて、認識した。俺はそれほどまでにお前のことが好きだということも、だ」

話している間に目の前の彼女の表情が微妙に変化する。
視線が俺から逸らされて、見れば、黒髪から覗いた耳も赤い。

「…バカ」

そっと置かれた言葉の艶っぽさに、俺の内側でドクンと大きく何かが鳴った。
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