第5章 ちいさい秋見つけた(1)
一拍の沈黙。
その後、誰が何を言ったのかはわからないが、聞き取れた限りでは「えぇ⁉︎」だの「はぁ⁉︎」だの「牛島さん⁉︎」だのと、そんな言葉が交錯していた。
こんな風に騒いだ時は注意する側の大平は何も言わない。
傍らの大平を見やると、珍しいことに言葉を失ってこちらを見ていた。
「お前らうっせーよ。注目浴びてんぞ」
遅れて来た山形が俺の右隣に座りながら言う。
その山形を気にもかけず、天童は白布に尋ね始めた。
「ちょっと待って、賢二郎。いま、何て言った?」
「え…いや、牛島さん、この間のインターハイの人、“天海”さんでしたっけ、あの人の連絡先、もらったって――そうですよね、牛島さん」
白布から急なトスアップ。
俺は、口に放り込んだアスパラガスを飲み込んでから冷静に打ち返す。
「あぁ」
「ちょっと、なにそれ! 英太くん聞いてた⁉︎」
「聞いてねぇ。初耳だ、噎せるの通り越して、うどん、鼻から出かかった」
「大丈夫か、瀬見」
「若利、お前っ、戻ってきた時、そんなことまったく言ってなかったろうが!」
非難の眼差しと言葉を向けられて、俺は困惑する。
「聞かれなかったが…?」
「小学生か、お前は!」
「英太くん、落ち着いて。大事なこと、確認しないと。――若利くん、つまり、もう既に“天海”さんとは連絡取っているの?」
「いや?」
「…へ?」
口を丸くぽかんと開けて、天童が俺を見たまま固まった。
「連絡先教えてもらったのに連絡取ってないのか」
まるで代役として代わりに舞台を演じるかのように、大平が俺に問いかける。
このくらいのトーンの方が話しやすいな、と内心で思いながら俺は首肯。
「あぁ。連絡できなかった」
「…しない、じゃなくて、できない…?」
「優勝したら連絡する約束になっていた」
「…もしかして、それが理由で連絡取ってないのか?」
「あぁ。ベスト8では、話にならない」
「…優勝できませんでした、の報告でも良かっただろ、ソレ。向こうは連絡欲しくて教えてきたんだし」
聞き役に回っていた山形が言う。
俺は、大平から山形へと向き直った。
「違う。俺から言って、連絡先をもらった」
だからこそ、そんな報告などできなかった。
そう言いたかったのだが、俺の発言を聞いて天童が即座にこう返してきたのだった。
「期待させといて…若利くん、サイテー」