第5章 ちいさい秋見つけた(1)
俺はトマトを口に運ぶ前に「瀬見と、いま、その話をしていた」と返す。
「へー、英太くん、情報通じゃん!」
と、引いた椅子に腰を下ろしながら、天童は隣の瀬見に。
「誰でも知ってんだろ、及川の話」
「はぁっ? なんで及川」
心底嫌そうな顔で天童が及川の名前を口にする。
あの青城のセッターを好ましく思う人間は、たぶん、この白鳥沢にはいない。その最たる者は、おそらく、山ほど自分の“読み”の裏をかかれている天童だろう。
「なんで及川の話なんてしなきゃいけないの」
「最初から『関東の選抜』って話せば良かったんだよ、お前が――若利、隣いいか?」
大平が天童の後に続いてやって来て補足もする。
俺は大平に頷いてから、視線だけで天童に先を促す。
天童は
「獅音、いきなりネタバレか」
と白けた口調で文句を言ってから、本題に入る。
「関東ブロック、“天海”さんトコが入ってるよ」
口の両端を吊り上げて、さも楽しそうに天童が言う。
俺は、それを見ながら、天童は何が楽しいのだろうかと疑問に思いつつ答えた。
「あぁ。見た」
「知ってたの、若利くん。…で?」
「なんだ?」
「それだけ?」
「…? 向こうもベスト16だ、下手に選抜チームを組むよりはうちのように“そのまま”出る方が良いと監督が踏んだんだろう」
「いや、あのね、俺、解説頼んでるんじゃなくてだね…」
話がかみ合わない、という表情を天童がする。
口を挟もうとしたのか、大平が何か言いかけたが、折しも1年の白布、川西、梅田がやって来て「同席してもいいですか?」と律儀に聞いてきたので大平はそちらと話し始める。
「せっかくのチャンスだって言ってるんだってば!」
「チャンス?」
「会えるかもしれないデショ!」
「選手じゃないからその可能性は低いだろう」
「ぬっ、正論」
「天童、話がズレ始めてんぞ」
「しまった。ありがと、英太くん。若利くんのペースにハマるとこだった」
「…意味がわからないんだが、天童」
そういえば、インターハイの時にも天童と瀬見、2人の言っている意味がわからなかったことを思い出す。
あれは何のことだったか…。
「会えると仮定。で、会えたらチャンスじゃん!」
「チャンス?」
「連絡先とか聞けるデショー!」
「聞いてますよね、牛島さん」
白布の割って入った言葉。
俺と白布以外の全員がなぜか動きを止めた。