第31章 二月の恋のうた(2)
真っ赤な瞳に、またぞろ、涙が溢れていく。
今度は俺が拭うより先に、天海が自身の両腕で目元を隠した。
「…私、若利くんが思ってるほど強くないよ」
「お前は自分を過小評価していると思うが…仮にお前が強くないとしても、お前の傍にいる俺は強い。お前が強く在れるよう、俺がいると思えばいい」
「…若利くん…」
「なんだ」
段々と小さくなっていく声音を聴き漏らさぬよう耳を澄ませ、先を待つ。
「…ありさ」
言え、と促しつつ。
「…傍に、いたい…」
呟かれた本音。
俺は安堵混じりのため息をつき、天海の腕を取って目を合わせた。
1つ年上の、気丈な、美人の類に属する女。
それが、幼い雰囲気すら感じる、頼りなさげな顔をして、俺を見ていた。
「傍にいたい」
「さっき、“そう”しろと言ったはずだが」
「強く、なる。あなたの傍にいられるよう、強く、なる」
「…お前は俺の話を聞いていたか?」
話の噛み合わなさに、何が足りないのだろうかと考え――そういえば、昨日、天童や瀬見にしつこいほど繰り返されたことを俺はようやく思い出した。
「天海」
「はい」
「お前のことが好きだ、だから俺と付き合って欲しい」
少し腫れ始めた瞼を、2度、瞬かせて、天海が震えた声で問うてくる。
「…若利くん…」
「コクる、というヤツだ」
「なんで…こんなタイミングで…ズルいよ…」
「お前を取り戻したいなら必ず言ってこい、と念押しされていた。こういう形に女はこだわると…違ったか?」
「違わない。ズルい」
狡いと言われるのは心外だが、そこには触れずに俺は続ける。
「…バレーを除けば、人の中ではお前が1番だ。だから、お前の言う“俺の大事にしているもの”はお前自身でもある。俺は、俺が尊重しているものを侮辱されることを好ましく思わん。これ以上、お前が自分を低く言うことも同じく好ましく思わん」
言ってから反応も確かめず、俺は天海の両腕を掴んだまま、目の前にある膨らみを服の上から軽く咥えた。
「んっ…若利くん…?」
「言い切った…そろそろ続きをさせてくれ」
ブラウスは脱がすのが面倒だ。
俺は天海の腕を離し、左手を彼女のスカートの中へ潜り込ませ、布越しに起伏をなぞった。
天海が小さく跳ねた。
愛しい、という言葉を思い起こす。