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【HQ/R18】二月の恋のうた

第31章 二月の恋のうた(2)


見上げてくる黒い瞳が微かに揺れた。
それは眇められ、潤む。

泣きそうな彼女の姿を目の当たりにするが、焦燥感はない。
なぜか、なかった。

見つめている間に彼女の目尻には透明な雫が現れる。

「…バレーに影響が出るくらい、私、弊害になった?」

呟きごと、俺はそれを人差し指の背で除けて、次いで親指の腹で天海の目尻も拭った。

「お前がいないことで俺のメンタル部分に問題が生じてると周りから言われた。監督からも注意された」
「…春高…負けたのは私のせい?」
「いや? 俺の…俺たちの力不足が原因だが?」

勝負の結果は、指示・采配をする監督、もしくは実際にプレーする人間に起因することだ。天海に責はない。

首を傾げ、俺は、なぜそんな話になるのかという疑問を態度で示した。

「勝敗にお前は関係ない」
「なら、私なんて…」
「俺が、バレーに取り組むための最適な環境を作るために、お前の存在が不可欠だ」
「バレーに取り組むための…最適な…環境…」

鼻を啜り、天海が復唱する。
俺は首を縦に1つ振り、頷いた。

「俺にとって何をおいても最優先なのはバレーだ。常に。それはこれからも恐らくは変わらない。だが…お前のことが好きだ。天海。お前を最優先としなければ、俺はお前を再び得ることはできないか? お前を欲しいと言ってはいけないのか?」

天海は唇を結び、不意に、両手で俺の頭を抱き寄せて自分の胸に抱いた。

「いけないわけ、ない、よ」
「天海」
「それでいいよ。いいんだよ。私は、あなたがバレーをしている姿を好きになったの、バレーに勝とうなんて思ってない。――あなたが1番大事にしているものを、私も大事にしたいから。変わらなくていい。バレー最優先で、いい」

ぎゅっと、胸に押し付けられる。
ブラウス越しに感じる温かく柔らかい感触、どこか懐かしい香り。

目を閉じ、浸る。

「私…若利くんがバレーをするのに、邪魔になったりはしたくない」
「お前はコートに立たないだろう」
「そうじゃなくて――」
「邪魔になど、マイナスになどならない。お前がいない方がマイナスだと今回のことで理解した」
「…もし、なったら?」
「そのときは直接言う」

俺は天海の腕をそっと引き剥がし、大きな真っ赤な瞳を仰視した。

「言われないうちは、傍にいろ」
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