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【HQ/R18】二月の恋のうた

第31章 二月の恋のうた(2)


天海に言い寄っていた男は、口調からして勝手に同じくらいの年齢かと思っていたが、身なりや様子を見るとどうも少し上のようだった。

酒でも入っているのか、やや胡乱な目が俺を捉え、明らかな怯えを垣間見せていた。
が、一瞬で我に返ると、侮蔑混じりの笑みを浮かべて
「なんだよ…とっくに二股かよ。お堅そうに見えてヤることはちゃーんとヤってんのな」
と言う。

「ガバガバな女は興味ねーわ」

吐き捨てたその台詞が癪に障り、俺は男を睨め据える。
だが、相手は意に介することなどなく、片手を挙げて「じゃあな、ヨロシクやってろよ」と俺たちに背を向けた。

不快な人間には時々会うが、こうも神経を逆撫でする人種にはなかなかお目にかかれない。
こちらからも一言二言投げつけようと凶暴な意思が声に宿りかけたが、

「若、利、くん…」

天海の呼びかけに、意識はすべてそちらへ向けられた。

「これ、どういうこと…」
「言っただろう。取り戻しに来た、と」
「意味がわかんない…別れたはずでしょ」
「別れはしたが、お前のことを忘れられなかった」
「そんな…だって――」

続きをすべて言わせず、今度はゆっくりと唇を重ねた。
甘い吐息が触れる。
欲する心根のまま、唇を食んだ。
そして、その柔さを味わってから、未だ戸惑う彼女の歯列の隙間を舌で静かにこじ開ける。

「ん…ふぅ…」

舌を絡ませれば、鼻から抜けるような声。
喉が鳴る。
挿し入れた舌で天海の舌を撫で、その裏側の筋を刺激した。

「んっ、んんっ…!」

身体がピクリと揺れ、その微細な反応が下半身を疼かせた。
欲情が血液と共に全身を巡り、俺は天海を一旦離すと、こちらへと向かせてから壁に細い身体を押し付けて耳朶に歯を立てた。

「ぁ…んっ…」
「…天海」
「ゃ…やめ…んっ…」

欲情が身体を熱くさせ、尖らせた舌で耳の輪郭を辿り始めたところで――。

「…あの、すみません…」

脇から遠慮がちな声が掛けられた。
俺は天海を壁に押さえつけた状態で傍らを見やる。

忘れていた。
“後輩”がそこにはいた。
彼女だけではなく、その横には“後輩”よりも少しだけ背の高い男が佇んでいた。

「…ここ、廊下なので…あの…続きは借りてる部屋で、どうぞ…」

天海が俺を突き飛ばしたのは次の瞬間のことだった。
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