第31章 二月の恋のうた(2)
南下する新幹線の車中で制服から私服へと着替え、駅のコンビニで買った軽食を摂取。
それから、携帯のアラームをセットして少しだけ眠った。
本当は到着までの間をほとんど寝て過ごそうとしていた。
が、寝入って30分ほど経った頃に携帯に入っている通話アプリが「連絡あり」と細かく震え、俺の意識を眠りから引き上げた。
画面を見れば「天童」の文字とメッセージ。
『若利くん、念のために聞くけど、ありさちゃんに連絡入れてる?』
バレー部2年全体のグループ通話で聞いてきていた。どうやら天童の独断による問い合わせではなく“代表質問”らしい。
俺は、ゆっくりと返信を打ち込む。
『いや』
『どーすんの』
いつものことだが、天童からのレスポンスは速い。
『どうするとは?』
『天海さんの家、知ってんのか?』
瀬見が割り込んできた。
俺は、簡潔に返す。
『知らん』
『若利、どこに向かってるんだ?』
『もしかしてありさちゃんの学校?』
バレー以外でも天童は察しがいい。
俺は、その天童に以前入れてもらった「それなー」という牛の絵をタップして送った。
『マジか』
『若利らしいな』
『獅音、その一言で片付けていいわけ?』
『送り出す前に聞くべきだったか』
『“牛島”だけに、モー遅い!』
一瞬の間に画面に吹き出しマークが連なる。
いつものように2年全員の会話になったが、その最後に写真画像が送信されてきた。
メール受信画面の画像だが、その差出人名に軽く驚く――天海の“先輩”だ。
『俺から若利くんに転送ぅー!』
天童の、口調までも脳内再生されそうなメッセージに促され、俺は画像をタップ。
件名は『随分時間がかかったね』。
こちらも、目の前にいるかのように声が聞こえてきそうな文面だ。
『天童くんから聞いたよ。ま、重い腰を上げてくれたなら十分だけどさ。で、今日があの子にとって高校最後の日、卒業式だって気付いてる? 行き当たりばったりじゃ、会えない可能性もあるからね』
ハッとした。
白鳥沢と同じように、天海のところでも卒業式が行われているかもしれない…その可能性をまったく考えていなかった。
にわかに焦る俺に画像がもう1枚。
そこには、こうも書かれていた。
『天海の学校の最寄駅、そこの改札でこの“先輩”を信じて待ってな』