第5章 ちいさい秋見つけた(1)
ベスト8。
そんな成績で俺たちのインターハイは終わり、仙台の夏祭りも盆の迎え火と送り火も終わった頃――白鳥沢の学食は人が疎らになる。
そもそも、学園自体は夏休みの只中にあって、利用者はそれほど多くはない。
では営業休止にすればいいかというと、そうもいかないらしい。部活動の練習に来る者もいれば、開放されている図書館に勉強に来る者もいる。
学園としては、そういった生徒たちを食事面でサポートする名目で、学食はほぼ毎日開放・提供されている。
「若利、国体の噂、聞いたか?」
閑散と呼ぶには少し人が多く、混雑と呼ぶには圧倒的に少ない、そんな学食内。
席についた俺に斜め向かいの瀬見が聞いてきた。
「いや」
返答し、すぐに当たりがついたことを口にしてみる。
「及川か…」
「ああ。監督、今年は声掛けなかったらしいぜ」
どこからそんな情報を?
わからないが、去年のことを踏まえると信憑性はある気がした。
国体――国民体育大会。
ほとんどの運動部にとって、夏のインターハイの次に来る大きな舞台だ。
各県の代表校がぶつかるインターハイや春高と異なり、国体は全国9ブロックに開催地を含めた計10ブロックから選抜された“チーム”同士の戦いになる。
東北ブロックの出場枠は3つ。
うち、1つが宮城に与えられていた。去年と同様。
その去年、宮城県の国体監督でもあった鷲匠監督は、青城の及川を選抜チームに招集した。
だが、本人からは辞退の申し出が為された。
国体に出るよりも、春高予選のためにチームに留まり続けることを選んだのだろう。
結果として、監督は“選抜”チームとして“白鳥沢”をそのまま連れて行った。
そのような経緯を踏まえた上での、今年。
鷲匠監督は、断られることを念頭に、初めから及川に声を掛けない道を選んだのだろう。
「ダメ元で声掛けてた、って噂もあるけどな…」
うどんを口に運びながら、瀬見がそんなことを言う。
もし、及川が招集に応じていたら、同じポジションである瀬見は今ごろ何と言っただろうか?
ふと思ったが、口に出して本人に確認はしない。
「若利くんー!」
賑やかな声が聞こえてきた。
俺は顔を上げる。誰がやってきたかは一目瞭然だ。瀬見は振り向きもしない。
「国体の話聞いたー?」
トレイを持って現れた天童が、奇妙なことに、嬉しそうに俺に聞いてきた。