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【HQ/R18】二月の恋のうた

第30章 二月の恋のうた(1)


(天海…)

夢など、醒めれば跡形もなく消えてしまうものだった。部活で掻いた汗と共に流れ消えて行くのが常だった。

天海の夢は、そんな風に消されることなど許さないとばかりに、繰り返される。

“若利くんより好き”

しなやかな裸体を俺以外の男に投じ、喘ぎ、乱れ、その男を好きだと叫ぶ天海。
男は、時に天童であり、瀬見や白布、川西、及川、岩泉であり、そして、時には俺の顔をした男であったことも。

蹂躙され、歓喜の声を上げる彼女の残影が、瞼を閉じれば鮮明に蘇る。

“若利くん、私が欲しい?”

残像からの問いかけに憤りに似た焦りをもって胸中で本音を語る。

――俺は、今も、お前が欲しい。欲しいに決まっている。

好きなのだ、今もなお。
抱きたくないわけがない。

別れても、元に戻るだけだと思っていた。
出会う前に戻るだけだと思っていた。

だが、違っていた。
大平の言うとおり、俺は自分を見誤っていた。

好きだという感情はゼロ地点に帰らない。それが無かった頃がどんなものだったかも、今はもう記憶にない。

少し考えればわかりそうなものだ。
天海は、バレー以外に初めて欲した存在。
同じくらいに欲したものがバレーだけならば…その前例からわかったはずなのだ。

手離せるわけなどないことが。

プラスだとかマイナスだとか、そんなことは関係ない。
あくまでも関係あるのだと言われるならば、俺はこう答えるべきだった。

お前がマイナスになるわけがない、と。

…あぁ、そうだ。
自分にとって必要なプレイヤーがたった1度のミスで「このチームには居られない」と言い出したようなものだ。
その1回は大きくマイナスだったかもしれない。敗因だったかもしれない。
だが、居なくなる方が十分にマイナスだ。

“先輩”や天童の言うとおりなのだ。

俺はなぜそのことに気づかなかったのか。
こうまで時間がかかってしまったのか。

2月が――終わる。

「なぁ、若利」

気遣わしげに声をかけてきたのは添川。
応えようと視線を向けたところで、
「若利」
背後から別の人間に名を呼ばれた。

俺は息を呑んだ。
いいや、俺だけではなく、添川と天童もそうだった。

「ちょっといいか」

男性にしては甲高い声音。
振り向けば、猫背気味に佇む鷲匠監督の姿がそこにあった。
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