第30章 二月の恋のうた(1)
春高後に代替わりした白鳥沢男子バレー部にとって、初の公式試合は3月の県民大会になる。
代替わりと言っても、チーム構成は主軸が俺であるという点において変わりはない。
が、人が入れ替われば大なり小なりチームの色も変わる。その新しい色に馴染むため、3月までの土曜はすべて練習試合が組まれている。
体調を慮る意味で日曜はすべて自主練習日となっているものの、1年間のうちで最もレギュラーが流動的な時期だ、率先して休む者はほとんどいない。
結果的に部員のほとんどが休養とは無縁の2ヶ月余りを過ごし、俺も渡された切符を寮の机の上に置いたままタイムリミットを迎えつつある。
「若利くん。明日で2月終わっちゃうよ」
校内、職員室への廊下を歩きながら天童がそんなことを言ってくる。
「わかっている」
他に答えようもないため、そう返した。
俺の斜め後ろを歩く添川は何も言わないが、「情報共有!」と言っては天童が顛末を話しているようで、2年で事情を知らない者はいない。
もしかしたら、まだ寮に残っている先輩たちも、日々共に練習に明け暮れている1年ですら、何らかの形で話を見聞きしている可能性がある。
この1ヶ月あまり、2年の誰かが“カウントダウン”をするたびに、その場に居合わせた者は例外なく押し黙り、何の話かを聞かれることがないのだ。
“有効期間は2月いっぱいだけど”
談話室で聞いた“先輩”の言葉は、セットしている目覚ましのアラームのように定期的に脳内に流れる。
最早その言は助言や忠告といった類のものではない。警告だ。
彼女が置いていった切符の期限、それが切れたとしても天海との縁が完全に断たれるわけではない――その理屈を解している一方で、あの切符は有限のライセンスであり、同時に、“先輩”を通して提示された天海からの最後通牒ではないかという思いも、また、ある。
定められた期限までに会いに行かなければどうなるか?
(天海)
立ち止まり、窓の外、中庭へと視線を運ぶ。
まだ春は遠いというのに、中庭のベンチには仲睦まじげに語らい合う1組のカップルの姿があった。
学年すらわからない、見たこともない女が、一瞬だけ俺の目には天海に見えた。
“牛島クン、天海はね、モテるよ”
耳に残る“先輩”の脅し文句が胸を焼き、夜毎に見る嫌な夢を蘇らせる。