第28章 片翼の鳥(4)
「確実に言えること?」
ポン、と思いがけない方から飛んできたボールのような話に意識のすべてが引っ張られる。
確実に言えることなど果たしてあるのか?
息を殺すようにして答えを待てば、“先輩”は勿体つけることなどせずに言う。
「天海は、今後、アンタが手を上げそうになる状況を“作らない”。あの子はもう妙なことに首なんか突っ込まないし、自分をもっと大事にする…賭けてもいい」
力強い一言が部屋に響く。
絶対の自信。
目に見える形で明示できるものではないのに、“それ”以外はありえないと盲信させるほどの言葉。
「…あの子はね、他人を優先させて自分を後回しにする。本人の優しさもあるけど、根底にあるのは自分自身に対する自信のなさだ。あの子は自己評価が低い。自分が他人に影響を与える存在だなんて思えないんだ」
生徒会長までやりながら、ね。
嘆くような“先輩”。
「でも、アンタと付き合って、自分の何気ない言動がアンタを動かしてる事実を知った。極め付けが、あの事件だ。自分の存在がアンタに間違った選択をさせるかもしれない、と認識した。…まぁ、だから別れ話なんて出したんだろうけどさ。そこまで理解した天海は、もう、軽はずみな行動はしない。あの子はアンタを貶めること、傷付けることを、絶対的に、徹底的に、回避する選択を常にしていく」
「…だとしても、俺が天海を護れないことは変わらない」
気付けば、俺はそう言っていた。
誰にも告げずにいた言葉。
自分で昇華していたはずの言葉を、吐いていた。
「俺は、天海とバレーを秤にかけた。結果として、バレーを選んだ。次に同じようなことが起こったときに、俺は天海を護れない…護らない」
「その結論のどこに問題がある?」
衝撃的な一言を“先輩”が放つ。
俺は、無言となった。
二の句が継げなかった。
当たり前のように提示された彼女の言い分を飲み込めなかった。理解できなかった。
「バレーを選んだことのどこに問題があるんだよ。それとも、なに、天海が護ってくれとか言った? バレーより私を選んでとか言ったわけ?」
「…天海は何も言っていない」
驚愕しながら告げれば、“先輩”が木で鼻を括ったような態度で俺に言ってきた。
「牛島クン、あまり私の可愛い天海を見くびらないでよね」