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【HQ/R18】二月の恋のうた

第28章 片翼の鳥(4)


春高敗退後、帰郷と同時に白鳥沢バレー部は代替わりをした。
県内の他校に比べると、実に1か月以上遅い。とはいえ、このスケジュール感は白鳥沢にとっては例年どおりであり、俺たち2年にしてみても昨年同様であるためこれといった違和感もない。

俺は、新体制において主将を任されることとなった。
これに関しても、他のメンバーはどうであれ、俺自身には特段驚きもしなかった。既に去年、学内の新聞部インタビューの際、時の主将から「お前が引っ張っていけ」と言われていた。その頃から心算というものはできていた。

主将は俺1人だが、副主将は2人いる。
大平と添川だ。

「これからは2人が若利くんの両腕だねぇ」

満場一致の決定後、大平と添川をそう例えたのは天童だ。
俺は「両腕?」と天童に聞き返した。

「そう、右腕と左腕」
「どちらが右腕で、どちらが左腕だ」
「えっ、それ、決めるの?」
「左腕の方がどうしても使用頻度が上がる」
「…そんなリアルさ誰も求めてない」

笑みを消してボソリと呟いた天童の横で、苦笑した瀬見が言い換えた。

「両腕じゃなくて両輪でどうだ?」
「両輪?」
「若利、お前は進む方向を決める役で…なんつーんだっけか」
「船頭だろ」
「隼人くん、船に車輪はないデショ」
「馬を、こう、ピシッ!って鞭打つ奴だよ」
「使者」
「従者ぁー!」
「馬を操る人間のことなら『御者』じゃないか」
「獅音のが“当たり”。…んで、何の話してたんだっけ?」

話の手綱を掴み損ねた瀬見が首を傾げ、俺は「両輪」と話が本来進むはずだった道を示す。

「そうそう、両輪! 若利が御者、獅音と添川は若利が指し示す道へ行くための2つの車輪ってことな」
「英太くん、良いこと言ったつもりでいるかもしれないけど…それ、動力ないと前に進まなくない?」

「それならば」と俺は、天童、瀬見、山形を均等に見つめて言った。

「お前たち3人が馬ということになるな」

3人はほとんど同時に顔を合わせ、ほとんど同時にため息をついた。

「馬車馬かよ…」
「走りどおしじゃん…」
「御者、容赦ねーよな…」

そんなやりとりを経て、各自の役割が決まったらしい…主将である俺以外は特に明確な仕事というものはないが。

その数週間後。
寮で、天童が馬の鳴き声を真似てから俺に声を掛けてきた。
「若利くーん、お客様だよー」と。
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