第27章 片翼の鳥(3)
私のせいなんです、と“後輩”が鼻を啜って続ける。
「私が、浮かれて、何も考えず、馬鹿なことばっかりしたから…それを、会長に相談なんてしたから」
独り言のように告げられた内容にピンと来た。
この“後輩”は、あの事件の当事者だ。
教師と付き合っていたという生徒会の一員。
「あんなことさえ起こらなければ…会長、牛島さんとは別れなかったはずです」
「それはわからない」と、本音が出る。
確実な未来など存在しえない。
だが、“後輩”は首を横に振る。
「わからなくなんてありません。会長…牛島さんのこと、本当に本当に好きなんです」
たくさん話を聞いているんです、と彼女は言う。
相談に乗ってもらった時から、ずっと。
ただただ真っ直ぐな人だ、と。
凛然とした強さを持って、バレーボールにも、相手にも、常に真正面から向き合う人なのだ、と。
「時々ね、若利くんの背中って羽が生えてるんじゃないかなって思うんだよね」
ファミレスのドリンクバーが何杯目か数えるのも忘れた頃、丸めたストローの袋でテーブルの水滴を吸い取りながら天海が言ったそうだ。
「羽…ですか?」
「翼、の方がいいかなぁ?」
「会長って、意外にドリーマーですね」
「別に、宗教画みたいな、本当に翼が生えた姿を想像してたりはしないからね。時々ね、スパイク打つときとか、本当にそう見えるの」
「滞空時間のせいですか?」
「かもしれない。空中でも姿勢が綺麗だし」
「まぁ、写真見た感じではいい身体つきされてらっしゃいますよね」
「うん、すごい綺麗なの。見惚れるの。カッコいいの。あとね、憧れる」
「憧れる?」
「うん。若利くんね、いつも背筋をピンと伸ばして、揺るがずに、真っ直ぐなの。あの人のようになりたい」
あの人に見合うような人間でいたい。
自分の好きとイコール、あるいはそれ以上に、好きでいてもらえるような人間でありたい。
「会長は…いまでも牛島さんのこと、好きなんです。泣いていたんです、昨日だって…忘れようとはしてるんだけどね、って…!」
「ならば、余計に会うことはできない」
“後輩”を遮って俺は断言した。
そして、すぐに彼女へ背を向けた。
「大平、戻るぞ」
「牛島さん!」
縋るような声を俺は無視した。
そうするより他にない。
天海が忘れようと努めているならば…俺はその努力を無下にはできない。