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【HQ/R18】二月の恋のうた

第27章 片翼の鳥(3)


メリハリの効いた声だった。
この数日間掛けられた声とはまったく性質の異なる、浮ついた雰囲気など一切感じられない声だった。

身体の向きを変えた。
目に飛び込んできたのは人の頭。
ゆっくりと視線を下降させれば、ようやく相手の顔。
眼鏡姿の、おそらくは同じくらいの歳の女。

…奇妙な感覚に陥った。

知らない女であることは確かだった。
だが、不思議と見知っているような気がした。

「牛島若利さん…ですか?」

無言でいる俺の代わりに、隣で大平が「君は?」と相手の質問に答えないまま逆に問いかけを為した。

その女は俺を上目遣いにじっと見据えた。
探るような目だと思ったが、即座に、違うと自分で気付いた。

この目は――俺を値踏みしている目、だ。

「お前は…誰だ?」

なぜ俺を測ろうとしている?
言外にそう匂わせて、問うた。

女は瞬きをした。目を逸らさずに。
俺は、息苦しさを覚え始める。
射抜くような眼差しは、埋め始めた記憶を無遠慮に掘り起こすのだ。“彼女”を。

“彼女”…?

俺の脳裏で、カチリとピースが嵌った音がした。
出てきた答えを吟味もせずに俺は女へと話しかける。

「お前は…天海の知り合いか?」

眼前の女の瞳が驚愕に染まった。
確信が、何気なく目にした光景をより鮮明に記憶の彼方から引っ張り出してくる。

確か…あれはインターハイの時だ。
そうだ。俺は天海の連絡先を聞きに行った。
その時に天海と一緒にいたはずだ。「先に行ってて」と天海に言われ、目が合った俺に目礼をして行った女生徒。

それから…あぁ、そうだ、もう1度見ている。
だから覚えていたのだ。
あれは、声を掛けずに去った時のこと。
制服姿だった…国体か。
階段の踊り場に天海はいた。背広姿の男――天海に暴力を振るった、あの教師だ――と一緒にもう1人、あの場にいた女生徒。

この女のことを何ひとつ俺は知らない。
だが、“知って”もいる。
天海の関係者だということを“知って”いる。

(…だからか…)

射るような眼差し。
天海の影を感じた理由を、俺は知る。

女は頷き、天海の後輩であることを名乗ってから俺に言った。

「牛島さん、探していました…あの、天海会長に会ってください。ここにいるんです!」
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