第27章 片翼の鳥(3)
春高本選は5日間の日程で行われる。
正月早々の、高校の運動部系の大会といえば他にサッカーとラグビーがある。だが、そのどちらも開会は前年末、年を跨ぎながらの開催であるため、年明けから始まり短い期間に集中して行われるのはバレーだけだ。
全日程のうち中日に当たる3日目は、3回戦、次いで準々決勝と、同日中に行われる。この2連戦がどこの学校にとっても1つの“山場”に当たる。
無論、白鳥沢にとってもそれは例外ではない。
「次は英太で行く」
3日目、館内の一画。
本日2度目の試合前ミーティングで、鷲匠監督が男性にしては少し甲高い声で準々決勝のオーダーを告げた。
直立不動の姿勢を保ったまま、俺は視線だけで瀬見を捉える。
この数ヶ月、控えのセッターに甘んじてきた男は自分でも予想外の通達だったのか、軽く瞠目していた。が、大して時を置かずに我に返り、唇を真一文字に引き結ぶと
「はい」
と硬い声音で監督に応えた。
俺は、視線を監督へと移す。
鷲匠監督は、横目で瀬見の様子を伺っていた。
凄みすら感じる眼光に、当事者ではない俺もまた息を可能な限り潜めて殺した――OB・先輩・後輩、誰もが厳格さを強調するこの小柄な監督は、時に剣呑としか言い表せない雰囲気を全身から発する。
監督のその視線を、俺の隣の瀬見は受け止め続けていた。身じろぐ気配すらない。試合以上の緊迫感の中で俺たちは監督と瀬見の対峙を見守る。
「わかっちゃいると思うが…ここが正念場だ」
だからお前に託す。
そうとでも言いたげな含みある物言いをしてから、監督はおもむろに俺たちへ背を向けた。
場の空気が瞬時に弛緩する。
その間合いを見逃さないコーチが、
「前の試合が終わり次第、コートへ移動!」
と檄のような指示を飛ばした。
部員一同、声を揃えて返答。
それを合図にミーティングは一旦、終了した。
「いまのうちにトイレ行っとけよー」
主将が補足の注意喚起をし、俺たちは先刻の返答が嘘のように、バラバラに
「了解」
「うぃーす」
「はい」
と個々のパーソナリティに合った返事をした。
「ふぅー、息詰まった」
後ろ手に手を組んだ“休め”の姿勢を解いて、瀬見ではなく天童がそうこぼす。
苦笑した大平が、珍しく、労うように天童の肩を軽く叩いた。それから「若利、トイレ行くか?」と声を掛けてきた。
俺は頷き、大平と共に場を離れた。