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【HQ/R18】二月の恋のうた

第26章 片翼の鳥(2)


「…あー、まぁ…」

こめかみを掻きながら、木兎がしどろもどろな口調で話し始めた。

「俺たち、バレーが1番だからな!」
「あぁ、俺もそう考えている」
「元気出せよ!」
「特に不調なところはないが…?」

切り返すと、横から再度のため息。
俺は思わず白布を見やった。
白布は俺と目を合わせず、気まずそうにしている。こういう時の挙動は瀬見と同じだな、と、性質がかなり異なっている2人のセッターの思いがけない共通項を見た気がした。

「木兎さん、佐久早さん、どこかに行かれたようですよ」

滑り込むように、何の違和感もなく赤葦が口を挟んだ。

「――はぁっ⁉︎ 佐久早ぁー!」

ハッとして木兎が辺りを見回し始める。
忙しなさと喧しさ、その両方が戻ってきた。
それは忘れかけていた時間を意識させ、俺は「白布、行くぞ」と声を掛けてチームに戻ることを告げた。

「…っと、牛若!」

去りかけに、木兎が呼びかけてくる。
一旦向けていた背を翻し、俺は「なんだ」と先を促した。

「お前の元カノ…さん、余計なお世話かもしれねーけど、もう会場来てっぞ」

木兎の放った言葉の矢が刺さった。
心臓が高く響いたのが、その証左。

「髪、肩より少し長いくらいになってたけど、美人だから目立ってたぜー。いいとこ見せればヨリ戻せるかもしんねーよ」

告げられた言葉が浸透してくる。

肩よりも少し長いくらい。
…あの流れるような黒髪を切ったのだろうか。
華奢な肩を滑り落ちる長い黒髪。
白いシーツに広がる艶やかな黒髪。
手に取り口付けた黒髪――あぁ、だから切ったのか、と俺は得心する。

(…天海、お前はもう前へ進み始めたのか)

木兎の目撃証言がどこまで本当なのか。
天童や瀬見ならまだしも、見間違いということもあるだろう。どちらかといえばその可能性が高いとも思える。

だが、大平に言ったように…俺は、天海がここに来ることを予感し、そして、確信している。

(お前は、この会場のどこかにいる…俺を見に)

「木兎」

俺は改めて木兎を呼んだ。

「ん?」
「コートで待っている」

緊迫感の欠片もなかった表情が引き締まり、荒々しい眼差しが挑発的な笑みを伴って俺へ向けられる。

「…やっぱ宣戦布告じゃねーか」

ここに天童がいたならば俺は言っていたかもしれない…闘志がみなぎってきた、と。
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