第26章 片翼の鳥(2)
「お前の彼女、大丈夫だったか? 成り行きで俺らも、その…ちらっと…事情を、だな…」
木兎の声のトーンが落ちていく。
ちらっと、という部分では傍らの男――赤葦だったか――を見やった。
釣られるように俺も赤葦を見た。
クレバーな印象を与える梟谷の1年セッターは、1ヶ月前よりもやや精悍な顔付きをしていた。プレーは見たことはないが、なるほど、井闥山同様に東京代表の定位置にいる梟谷らしい、“戦える”セッターなのだろうと推察する。
その赤葦は俺に目を向け、ほんの一瞬だけ隣の白布にも視線を運び、そのままゆっくりと瞬きをするように小さく頭を下げた。
慌てて、俺の横で白布も会釈する。
その間、無言。
寡黙な男だったか?
訝ったが、上がってきた、こちらを覗き込むような目で察した――あのとき現場にいなかった白布がどこまで話を知っているか、それがわからないから詳細を話すのは控えたのだろう。
周囲は何かと騒がしいが、誰に聞かれてもいいという話でもない。
賢明な判断だ。
俺は、感謝の意も込め、赤葦と木兎の双方の目をしっかりと見てから首を縦に振った。
「大丈夫だ。大事には至らなかったと聞いている」
「そっか…! しっかし、あんな美人な彼女、どこで捕まえたんだ! ずりぃーぞ!」
「美人…?」
木兎たちが天海の姿を見たのは怪我を負った後のはずだ。美人と称する根拠はわからない。
首を傾げると、
「なんだ、『俺の彼女は美人じゃない』とか、言うつもりかよ⁉︎」
と、憮然とした顔で言われた。
俺は、彼の発言に対する謎を追うのはやめ、「いいや」と俺の考えを間違って解釈されていること、それへの歯止めを優先させた。
「天海はその辺の女たちとは違う。綺麗だと俺も思う」
「な…」
木兎が口を開けたまま固まった。
彼の隣にいる赤葦は口を閉じているが目を丸くしていた。
美人、と言った木兎を肯定しただけだ。
彼らの反応を不思議に思ったが、俺は大事なもう一言を告げる方を選ぶ。
「だが、もう俺の“彼女”ではない」
「…へ?」
「クリスマスに別れた」
「――ふ、振られたか、あの美人に!」
「そうだ」
意外なことに木兎が正鵠を射た。
頷くと、なぜか沈黙が場に横たわる。
「…木兎さん…」
「…牛島さん…」
その中で、2人のセッターが俺と木兎、それぞれの名をため息と同時に呼んだ。