第26章 片翼の鳥(2)
受付を済ませ、建物内に入ると、ベンチ組を含めた俺たちレギュラー陣はユニフォーム姿となって開会式のための待機場所へ移った。
全出場校が揃い踏みしているその場所では、俺たち白鳥沢は「常連校」としてそれなりに注目を浴びる。
「牛若だ」
「夏に比べて一回りデカくなってねー?」
「反対の山で良かったわ、マジで」
隠そうともしていない会話が幾つか耳朶に流れ込んでくる。
気にするようなものでもないため聞き流す一方だが、知った声が飛び込んできたならば話は多少変わる。
「予選のリベンジさせてもらうからな、佐久早!」
空気を裂く、という表現でも用いたものか。
雑音を払いのけるような真っ直ぐな声質。
俺は近くにいた先輩に軽く頭を下げることで断りを入れて、声がしてきた方へと向かった。
「首を長くして待ってろよ!」
「木兎さん、『首を洗って』じゃないですか」
先月と変わらないやりとり。
良くも悪くも目立つ男だ、と俺は胸中でひとりごちて、声の主へと近づく。
「――木兎」
「あんっ?」
呼びかけに即座の反応。
木兎が俺の方へと振り返った。
結果、木兎の向こう側にいた、木兎が話しかけていた相手の顔も見え、目が合った。
「…白鳥沢の…」
木兎とは対照的な、口元を覆い隠しているマスクでくぐもった声。
俺のことを知っているらしい。
俺も、この男の顔をどこかで見た覚えがあった。ユニフォームに目を走らせる。
「井闥山…」
白鳥沢と同じく、全国強豪校。
確か、いまの3年エースは学生選抜にも名を連ねていたはずだ。そこの1年…?
誰だろうかと自らの記憶を探る。と、斜め後ろから「佐久早聖臣」と回答が。
驚き、半身を捻って顧みる。なぜか白布が俺に付いてきていた。
「おっ、牛若じゃん!」
溌剌とした木兎の声が展開を巻き戻した。
俺は改めて彼へと向き直った。
背後ではざわめきが強くなった気がしたが、瑣末的なことだろうと判断して俺は木兎との会話に集中することを選ぶ。
「木兎」
「おう! 先月以来だな。…なんだ、宣戦布告か⁉︎」
「いや。その“先月”の礼を言いに来た。この間は世話になった」
ここまでやってきた理由を切り出す。
木兎は首を傾げ、やがて、思い出したのだろう、「あぁ!」と手を叩いた。
「彼女のことか!」
彼女。
その瞬間、隣に並び立った白布が緊張したのがわかった。